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「金融のど素人」が住宅ローン会社の社長になったワケ

デル日本法人元社長が語る金融業界の可能性
「金融のど素人」が住宅ローン会社の社長になったワケ

浜田氏

 米投資ファンドのカーライル・グループ傘下で住宅ローン専業のアルヒ(旧SBIモーゲージ)。35年間の長期固定金利住宅ローン「フラット35」の販売で業界首位を独走するが、9月に社長に就任した浜田宏氏は自らを「金融はど素人」と語る。製造業畑が長く、米デル日本法人の社長時代は在籍6年間で売上高を5倍に拡大、国内シェアを9位から3位に押し上げた。最高執行責任者を務めたHOYAでは買収したペンタックスの事業再建に奔走。「金融はわからない」と苦笑する男は、なぜ金融業界を次の舞台に選んだのか。

-製造業に長く携わってきましたが、なぜ金融業に転身されたのでしょうか。
 「カーライルとは以前から付き合いがあったので、『話をとりあえず聞いてくれ』と去年の夏頃に話があった。その時は『金融はわからんよ』と答えたんだが、それでも、聞いてくれというから、聞くだけならよいかなと。実際に聞いていたら、この会社は可能性があるなと感じた。アイデアというか妄想がむくむくうかんできた」

昔は俳優になりたかった


-他にもいろいろ話はあったと思いますが。
 「他にもいろいろ話はあったのは事実。大企業もあったし、業界再編を手伝ってくれませんかという話もあった。ただ、人からどう見られるかでなく、しがらみながないところで、ゼロから、自由におもしろいことをやりたかった。業界再編の統合はしがらみだらけでしょ。アルヒはカーライル傘下になったことで、SBIから離れて自由度が高い。昔はもちろん名誉欲や金銭欲もあったし、それが良い意味で原動力になっていた。50歳を過ぎて、いまはそぎ落ちた。つきものが落ちたというか」
 
 「元々、ひとつをきわめるという発想はない。昔は俳優になりたかったし、その後は海が好きだから、ダイバーズショップを経営したかった時期もあり、結局、船会社に入った。そして、デルなどを経て、今は金融。常に新しいことにチャレンジしたいんだよね。飽きっぽいと言うのかもしれないけれども」
 
 -金融は素人と公言されていますが。
 「正直、金融は詳しくないよ。アリコジャパン(現メットライフ)で働いていたことはあるけど短期間だし、かなり昔。金融のネットワークも人脈も太くないけど門外漢でもなんとかなる。実際、これまでもどうにかなってきた」

 「デルの成長期を体現しことで、タフになったし、HOYAとペンタックスの統合後の混沌とした状況を舵取りしたことで、たいていのことでは驚かなくなった。過去の慣習や他社の動向など基本だけおさえて、引いたところからみると中の人には見えない景色が見えてくる。きわめて浅く広くやってきたからこそ見える違う景色もある」

 -住宅ローン会社にとって違う景色とは。
 「住宅ローンは欲しくて契約するわけではない。むしろ、誰もほしくない。新しい家で新しい生活をスタートさせたいだけ。それを提供するのがサービス業ではないかと思った。自動車でも(ローンが)5-6年なのに、住宅ローンは35年も寄り添える。それなのに、貸しっぱなしではないかという疑問があった」

 「『住宅ローン会社』と自己定義せずに、住生活をサービスする企業になればよいではないか。なぜ、上流に出て行かないのだろうかと。例えば、不動産そのものを扱わなくても、過去の売買データを使えば不動産情報サービスもできる。実際、年内にも事業化しようとしている」

 -なぜ、他の金融機関はやろうとしないのでしょうか。
 「不思議だよね。横並びの意識が強いし、出る杭は打たれる風土があるのかな。そっちの方が心地よかったりするのかもしれないけれども、当社にはチャンスが広がる。(規制の問題はあるにしても)リスクばかり考えずに、新しいことに挑戦して、やってだめならばやめればよい」

マイノリティの気持ちがわかる


 -大手銀行の一部も契約者に対するサービスを拡充する動きもあります。
 「規模的にも大手と張り合うつもりはない。単身女性や外国人など、大手行がとらえきれない人々にサービスを提供したい。私自身、何度も転職してきたし、海外でも働いた。マイノリティの気持ちはわかる。安定した生活には充実した住居が必要だ。マーケティング抜きに多様な方に融資していきたい」

 -女性専用の住宅ローンの提供もその一環ですか。
 「その通り。フラット35の前身は住宅金融公庫の公庫融資。戦後に、民間への融資が限定されていた中、より間口を広く融資しようという崇高な目的を実現するために作られた融資制度だ。その理念は今も残っており、私が当社に惹かれた理由のひとつでもある」

 「現在、日本は人口減少が喫緊の課題だ。個人的にもどうにかしたい強い思いがある。労働人口を増やすためには多くの人が働きやすい環境づくりが欠かせない。女性向けのコールセンターの拡大も検討しているし、複数の外国語に対応したコールセンターの設置も構想している。もちろん提供するサービスだけでなく、社内の働き方改革も推進しているが、まだまだ。土日のみ勤務や11時から15時半の勤務もありではないか。柔軟な働き方を提供することで、子供を持つお母さんやシニアなど多様な人に働く場を提供したい」
ニュースイッチオリジナル
日刊工業新聞記者
日刊工業新聞記者
「やってみて、ダメだったらばやめればよい」発想はリスクを恐れる金融業界にはない視点だけに同社の今後の展開に注目です

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