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ゼンリンが業績復活の目玉にする不動産業界の“コトづくり”

地図との親和性を深耕。業種特化型のコンテンツ増やす
ゼンリンが業績復活の目玉にする不動産業界の“コトづくり”

新たなビジネスは空き家活用の一助となるか

 衛星やインターネットの発達により地図が手元のスマートフォンに収まるようになり、地図を利用する人の数は急拡大した。一方で従来のやり方では稼げなくなってきているのが、既存の地図提供会社だ。その一つであるゼンリンは、2015年3月期に2期連続の減収、営業減益を計上。この状況を打開すべく、これまで蓄積してきた地図のノウハウを活用し、新たなビジネスにつなげられないかと画策している。その一つがBツーB市場の開拓だ。

 「今はモノ売りだが、用途開発を拡大して『コトづくり』の事業へ展開したい」。ゼンリン第一事業本部GIS事業部の三村達哉部長は、今後の展望をこう示す。誰でも簡単に地図を見られるようにはなったが、経路案内以外のさまざまな付加情報を地図に求める業種は確実に存在する。これらの業界を深耕していくのが、基本的な戦略だ。

 現在、重点攻略市場に据えるのが不動産業界だ。不動産会社は目的ごとに地価や路線価、地盤、住宅地図、土地計画図などさまざまな地図を使わなければいけない。しかしこれらを一度に見られるツールはなく、特に各種地図を一覧できる大がかりなシステムの構築が難しい中小規模の事業者には、負担となっていた。そこに目をつけた。

「空き地・空き家」のデータを整備し仲介業者へ


 13年に不動産業務に必要な各種地図を一つにまとめ、パソコン上で簡単に閲覧、利用できる「ZENRIN GIS パッケージ不動産」を発売。利用料が月額1万円(消費税抜き)で「手軽に導入できる」(三村達哉部長)こともあり、倍増ペースで利用者の数を増やしている。

 10月には機能を拡充。衛星画像と連携することで住宅地図と衛星画像を比較し、周辺環境が見られるようにしたほか、地図上でスタート地点とゴール地点を選択するだけで、2地点間の距離を簡単に計測できるようにした。導入した顧客からは「電話をしながらパソコンで地図を見られるため、業務効率向上につながった」といった声も多いといい、三村部長は「15年度に利用者数を1万社まで伸ばしたい」と意気込む。

 今後も業種に特化した地図コンテンツやパッケージ商品を拡充し、現在は2つの商品数を、20年に10個まで増やす計画だ。その中でも今、目をつけているのが空き地や空き家。東京、名古屋、大阪の主要都市で調査員が現地を回って集めた空き地や空き家のデータを整備し、大手仲介専門業者へ販売するビジネスだ。

 すでに一部の都市のデータ収集とデータ提供を始めており、16年度までに対象を600地区まで広げることを目指す。パッケージ提供するかどうかも、今後検討していく。

 住宅地図をベースにしたGIS関連事業が堅調に伸び、15年4-9月期の業績は前年比で大幅に向上。16年3月期の業績予想も、前期の赤字から黒字転換する上方修正を実施した。今後のアプリケーション展開が、同社の成長を大きく左右すると言えそうだ。
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政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
人手を使った緻密な実地調査はゼンリンの強みである一方、コストがかかるため収益を上げるには、アプリケーションやサービスを増やすしかない。他社とのコラボレーションもさらに必要になるだろう。地図データでどんなことができるのか、その広がりや可能性を見せてくれることも期待したい。

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