TPPでビジネスはこう変わる!中小企業にも恩恵

「日本にいながらにして安心して海外展開できる」

 環太平洋経済連携協定(TPP)の意義は、広範な品目に及ぶ関税撤廃だけではない。サービスや投資分野では、煩雑な関税事務を簡素化し、中小企業の海外展開を後押しする参加国共通のルールや新たな約束ごとを実現した。協定発効で何が変わるのか―。政府が公表した全容から事業活動への影響を探る。   【完全累積を実現】  「日本にいながらにして安心して海外展開できる」(渋谷和久内閣審議官)―。TPPがもたらす経済効果について政府関係者が最も強調するのが、サプライチェーンが飛躍的に拡大する点だ。生産工程が複数国にまたがってもTPP参加12カ国内で生産された物品は「メイド・イン・TPP」と見なされ、関税優遇を受けられる。商品がどの国で作られたかを特定する「原産地規則」と呼ばれるルールにおいて「完全累積制度」が実現したからだ。商品の生い立ちが細かく問われる煩わしさから解放され、部品の供給網が広がれば、優れた加工技術を持つ中小企業の輸出競争力は一層高まる。  例えば、マレーシアで現地および各国から調達した部品で完成品を組み立てて、米国に輸出する場合―。原産地規則が50%で、マレーシア製の部品が付加価値全体の25%にとどまっている完成品でも、日本やベトナムなどTPP参加国製の部品を加えて全体の50%以上に達していれば、TPP域内産として無税で輸出できる。日本企業は「どの国で何を作れば最もコスト安なのか」と頭を悩ませる必要がなくなる。都内のある中小経営者は「域内各国と同じルールで取引できれば海外生産という発想自体がなくなる」と話す。  【自己申告】  ただ、実務面では留意点がある。TPPに限らず経済連携協定では、輸出産品が相手国税関で関税優遇の適用を受けるには、資格を満たしていることを証明しなければならない。「原産地証明書」はこれまでは日本商工会議所が発給していたが、TPPルールでは、輸出者や生産者が自己申告することになる。また、相手国政府は必要に応じて産品の輸出者や生産者の施設を訪問し、資格を満たしているかどうか情報収集できることになっているが、これについては「過度に心配することはない」(TPP政府対策本部)。仮にこうした事態に遭遇しても、政府関係者が立ち会うなど万全の対策を講じるという。なお課税価格1000ドル未満の産品は原産地証明は不要だ。    【「6時間以内」】  通関がスムーズになる効果も期待される。TPPでは急送貨物の迅速な税関手続きを確保するため、「6時間以内の引き取り」を許可するよう明記した。「平均18分」という日本とは雲泥の差だが、交渉にあたった政府関係者は「各国が『6時間以内』を約束したことに大きな意義がある」と評価している。  自社が扱う産品が、どの関税分類に該当するかや、原産地規則について書面で事前に確認できる制度も導入される。TPP参加国は問い合わせに対し150日以内に回答しなければならない。これはWTO(世界貿易機関)には定めのない新たなルールであり、貿易実務に不慣れな企業には朗報だ。自社が輸出する商品の関税分類が誤っており、相手国税関から差し戻されるなど時間をロスするケースが珍しくないからだ。    【移転禁じる】  投資先の国が投資企業に対し技術移転を要求するといった、円滑な投資を妨げることを禁じるルールも盛り込まれた。工場の設立後だけでなく、「設立段階」も対象に明記されたのは、資源開発におけるボーリング調査などを想定している。交渉では資源国の抵抗もみられたが、政府は成果を勝ち取った意義を強調する。  このほか電子商取引の分野では、自国にホストコンピューターを設置するよう要求することや、ソフトウエアを輸出する際にソースコード(ソフトウエアの設計図)の移転を要求する行為も禁じられた。交渉担当者は「これらは日本が強く主張してきた規定」とした上で、とりわけ中小企業が多いソフトウエア関連産業にとって、「使い勝手の良い規定になったはず」と話している。    **「地方企業の仕事外資に奪われる?」−政府が懸念一蹴  【政府調達】  TPP協定では、各国GDP(国内総生産)の2割以上を占める政府調達市場に関する新たな規定も設けられた。政府機関による物品の調達や公共事業の発注額が一定規模以上の場合は、外国企業にも入札を開放するルールが盛り込まれた。日本はすでにWTOの政府調達協定でこうした措置を講じているが、TPP参加国の中ではマレーシア、ベトナム、ブルネイの3カ国にとって初の市場開放となる。    【攻めの分野】  一方で、政府が火消しに躍起なのは、日本の地方企業が外資に受注を奪われるのではないかとの懸念だ。市場の対外開放が進めば、「地元の食材利用を定めた地方自治体の条例がTPP違反になるのでは」といった報道もある。  政府がこれらを「全くの俗説」と一蹴する根拠は、TPP協定において日本はすでにWTOで約束している調達額および調達対象機関を変更していない点だ。例えば建設・サービス業の場合、中央政府は6億円、地方政府(47都道県と政令市)は20億2000万円を超える場合は入札を実施しなければならないが、TPP協定においてもこの水準は維持される。  むしろ日本にとって追い風なのは新規に門戸開放するマレーシアなど3カ国以外にも商機が広がる可能性があることだ。チリやペルーは調達基準額の引き下げを約束。米国は対象機関として航空宇宙局(NASA)を追加したほか、豪州の交通安全局やカナダの社会資本庁、シンガポールの国立図書館も政府調達の対象になるという。すでに市場を開放している日本にとっては「守り」ではなく「攻め」の分野となりそうだ。 (文=編集委員・神崎明子)

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