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「自動車素材」軽量化競う(下)快適性に貢献する機能樹脂材

軽さや剛性に吸音性や断熱性まで持たせることで引き合いが急伸
「自動車素材」軽量化競う(下)快適性に貢献する機能樹脂材

吸音材を付加した素材で、燃費向上と快適さに貢献する(QPCのシート複合材)

 未来の車はドライバーや同乗者の快適性を一層高める工夫も欠かせない。ここにも素材メーカーの技術が生かされている。

 軽さや剛性に吸音性や断熱性まで持たせることで引き合いが急伸している材料がある。三菱樹脂グループのクオドラント・プラスチック・コンポジット(QPC、スイス)が展開するシート複合材だ。ポリプロピレン繊維とガラス長繊維を複合化したもので、ドイツのBMWやアウディ、米ゼネラル・モーターズなどがアンダーカバーや天井材に採用している。

 アンダーカバーは燃費向上の必須アイテム。QPCの担当者は「どんなに低いグレードでもカバーをつける傾向にある」と語る。ただ、カバーといえばその名の通り、単純に覆うだけのモノが主流。

 吸音性に対してはカバー表面に別の素材を貼り付けるなど「手間をかけて」(QPC担当者)対応していた。同社のシートは「どうせなら、吸音性がある素材でカバーを成形すれば楽だよね、という発想で生まれた製品」と胸を張る。

 窓ガラスの機能性向上も進んでいる。ガラスをベースに事業領域が多岐にわたる旭硝子の島村琢哉社長は「技術の融合を進めながら顧客目線で見た時、どのようなものが必要なのかを考えたい」と語る。

 例えば調光ガラス「ワンダーライト」は太陽光を制御する特殊なコーティングにより、透明モード時でも紫外線や赤外線をカット。日焼けを気にする女性に配慮したり、車内の急激な温度上昇を抑えたり、さまざまなメリットによって高級車への採用が進む。

 積水化学工業は樹脂技術を用いたガラス中間膜で強みを発揮。特に競争優位に立つのが、複数ある層の中間膜に独自の樹脂層を加えた遮音性中間膜だ。ガラスの飛散防止だけでなく、遮音性や遮熱性を持たせた点で他社に先行。世界の新車の約30%に採用されているとも言われる。

 一方、東ソーは新車特有のツーンとしたにおいをなくし、ドライバーの不快感の軽減を目指す。特殊な触媒を開発し、においの原因となる揮発性有機化合物(VOC)の発生を抑えるウレタン樹脂の生産に成功。20億円を投じて南陽事業所(山口県周南市)に同触媒の生産設備を設置した。自動車のシートなどに使うことで嫌なにおいを一掃する。

  旭化成ケミカルズもシートベルトのプッシュボタンなどに使うポリアセタール(POM)樹脂で、においの源となるホルムアルデヒド放出量を従来品の10分の1に抑えた。生産拠点がある中国をはじめ、新興国での需要を取り込む。

 江蘇省にある旭化成ポリアセタール(張家港)の谷村徳孝総経理は「ホルムアルデヒドなどVOCを抑えた高機能品を生産できるのは中国で当社のみ。いずれ中国でもVOC規制が進むはず。低VOC品をつくれる強みを生かす」と表情を引き締める。
日刊工業新聞2015年10月29日 素材面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
クルマに求められる機能がモビリティ―だけでなく、快適性、居住性などにも視点が移っているように思う。目に見えないところで素材の変化がクルマの快適性に貢献しているようだ。

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