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標準化スタート!日本発の技術をどう反映

インダストリー4.0連載第二部#02 堂々と世界標準として売り込め
 モノのインターネット(IoT)技術で製造業のあり方を一変させることを目指す、ドイツ発の新・産業革命「インダストリー4・0(I4・0)」。現地推進団体が4月に公表した技術文書「インダストリー4・0実践戦略」には、標準化に向けて一歩踏み込んだ内容が盛り込まれた。I4・0の未来像は具体化に近づいたのか。

 【通信の一本化】
 「実践戦略」の焦点はいくつかある。まずは企業の基幹システムと工場自動化(FA)システムをつなぐ通信規格の標準が「OPC―UA」に一本化されたこと。OPC―UAは米マイクロソフトが開発したプロセス制御向け規格から発展したオープンな機器間通信規格。リアルタイム性(高速応答性)に劣るがセキュリティーレベルは高いとされる。

 次に、FA機器同士を結び高速通信が必要な領域(フィールドネットワーク)では、従来の通信規格を使ってもよいこと。ただし、OPC―UA対応の通信ができる口をもうける必要がある。I4・0システム上で機器類を認識するための「管理シェル」というバーチャルな仕組みを導入することで、元の通信規格を残したままで柔軟にネットワークを組むことが可能になった。

 【実社会との差】
 独ベッコフオートメーション日本法人(横浜市中区)の川野俊充社長は「今ある技術を生かす現実的な内容。うまく標準化を進めている」と評価する。一方日本勢からは「実践戦略というわりに実践的なことがあまり書かれていない」といった感想が上がっている。

 難点は実社会での運用との間にギャップがあることだ。「まだ実現していないのにもかかわらず、I4・0対応をうたう製品が欧州にはあふれている。中身は従来の製品と変わらないのに」と、日本のFAメーカーの担当者は批判する。

 【万全な対応】
  日本発の技術を欧州標準にどうやって反映させるかも課題。OPC―UAや管理シェルに当たる技術を独自開発してすでに持っている日本のFA機器メーカーはある。日本ロボット工業会が主導し策定したFAネットワーク標準の「ORiN」についても「I4・0と同じことを、先駆けて可能にした技術」とベッコフの川野氏は高く評価する。しかしいずれも、欧州標準や、ひいては国際標準として売り込もうとする動きは見られない。

 I4・0の標準化は始まったばかり。ドイツ発の技術が国際標準の座を独占し日本のユーザーが困ることのないよう、万全な対応が求められるところだ。
日刊工業新聞2015年10月21日1面
清水信彦
清水信彦 Shimizu Nobuhiko 福山支局 支局長
 この「インダストリー4.0実践戦略」というのは重要な標準化の技術文書なのですが、ちゃんとした日本語に訳されたものを読んでも、専門的すぎて素人にはまずほとんど理解できません。そういう意味では、ベッコフの川野社長にわかりやすく解説いただいて本当に助かりました。  日本の大手FAメーカーにも取材していますが、いろいろな大人の事情もあり、この記事では実名を出していません。そのことがかえって、堂々としたドイツ勢と、こそこそ陰口をたたく日本勢という印象を与えます。特に、記事を書いた本人である私がそういう印象を持ってしまいました。  本当にいい技術を持っているならば、堂々と世界標準として売り込めばいいのです。

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