村田製作所は一日にして成らず(2)アップルショックに動じなかった“生の情報”

攻めの投資でライバルを突き放す

スマホに搭載される電子部品の製造工程

 2012年夏、電子部品業界に起こった“アップルショック”。同年9月発売の米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)5」の量産開始が遅れ、部品メーカーは生産調整を余儀なくされた。大口顧客の変調に翻弄(ほんろう)される部品各社。村田製作所も影響を受けたが、積極的な設備投資の姿勢を貫いた。  積極投資は今に始まったわけではない。リーマン・ショックの前には売上高1兆円達成を掲げ投資額を拡大。08年3月期には1000億円の大台を超えた。その影響もあり09年3月期は営業赤字に転落。それでも10年3月期の228億円を底に、13年3月期には776億円とわずか3年で3倍に増やした。今期も同水準を維持する。  教訓がなかったわけでない。それでも投資の背中を押す存在がスマホだ。今や端末台数は年10億台に達し、さらに拡大を続ける。主力製品である積層セラミックコンデンサー(MLCC)における最大の供給先。高級機1台あたりに500―700個も搭載され、アップルなど大手端末メーカーは、提示したフォーキャスト(受注予測)に対応できる供給能力の有無を、発注の最大要件としている。  コンポーネント事業本部本部長で常務執行役員の井上亨は「急に倍の量が必要だったり、次期モデルでは3倍になるケースもある」と証言する。部品各社は「ある程度在庫を積み増して対応」(大手部品メーカー)するなど、受注予測の試行錯誤を繰り返しているが決定打はみつからない。  その点、村田製作所の戦略は明快だ。生産本部長を務める取締役上席常務執行役員の牧野孝次は「そもそも10打数10安打は不可能。(受注の確度が高まってから投資しても)スピード感がなくなる」と言い切る。コンポーネント事業本部長の井上も「賭けに近い投資を思い切らなければならない時もある」と話す。  それでも、不確定要素を最小限のリスクに抑えられるのが村田の強み。多様な製品ラインアップを持ち、多くの顧客や装置・部材など“スマホ経済圏”に住む人たちと日々対話して手に入れる「生の情報は非常に大きい」(牧野)。生産と営業の密な連携が、投資の機動力の礎になっている。 (敬称略、肩書きは当時のもの)

続きを読む

特集