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《加藤百合子の農業ロボット元年#02》アイガモが除草をする日

楽しくないマイナス作業からは早く解放を
《加藤百合子の農業ロボット元年#02》アイガモが除草をする日

アイガモロボットが全国で見られるようになるのも時間の問題かもしれない

 みなさんは農業ロボットと聞いてどのようなロボットを想像するだろうか? おそらく、収穫を思い浮かべる人が多いと思う。収穫時期はテレビなどマスコミでも紹介されるため、消費者にも見える農業の花形作業。

 しかし、実際に生産現場から求められるロボットは異なる。農産物が収穫に至るまでに、さまざまな作業、土づくり、種まき、定植、防除、除草、葉かきや剪定(せんてい)、間引き、潅水など、日々の管理を数カ月続けようやく収穫となる。つまり、収穫は数カ月間の努力の結晶として最も生産者が楽しめる”プラス“の作業であり、ロボットに代替してほしいという要望は思うほど高くない。逆に、人目につかないけれども怠ると品質に影響する除草や葉かき、防除など、必要に迫られて行う”マイナス“の作業からは早く解放してほしいという。

 では、実際どのようなロボットがあるかというと、研究室レベルに留まっているものがほとんど。そのような中、魚沼産コシヒカリで有名な新潟県十日町市でアイガモロボットによる除草作業を行うというので視察させてもらった。生産者は無農薬有機栽培で米を育てる魚沼循環米組合の組合長南雲氏。無農薬であるがゆえに、日々の雑草の管理に手を焼いていたところ、みのる産業(岡山県赤磐市)が研究を進めるアイガモロボットを知り実証に乗り出した。まだ改良点はあるものの、ぬかるんだ田んぼを歩かなくていいだけでどれだけ楽だったかとその効果を実感できた様子。

進まぬ開発、走行と安全性が課題


 これまでなぜ除草ロボットの開発が進まなかったのか? いくつか理由が考えられる。まず、マイナス作業に対して人手が確保できていた。乗り気ではない仕事ではあっても機械を購入して楽をするより、自分たちが労力を割いてコストを削減する方が優位だったのだ。しかし、人手不足が急速に深刻化し、プラス作業に人をあてマイナス作業は機械に任せる必要性が出てきた。

 二つ目は足場が悪いこと。昨今自動車各社が自動走行試験を公開しているが、ぬかるみやデコボコの多い農業現場ではロボットの走行安定性を確保するのが難しい。思い通りに走行させようとすると高価な機械になり、導入可能ではなくなってしまう。

 そして三つ目は安全性。ロボットに共通する課題であるが、前述のとおり走行安定性も確かでないにも関わらず、刃物が回転する除草ロボットはその安全性をどう担保するか。人手不足解消のタイムリミットが迫る中、いま一度現場の要求仕様とマーケットを整理し、開発に乗り出す企業を呼び込みたい
日刊工業新聞2015年10月21日 ロボット面
加藤百合子
加藤百合子 Kato Yuriko エムスクエア・ラボ 代表
「TPPもあり、農業も工業のように開かれた市場になっていきます。日本らしさを残しながらも生産性を上げるためには、業界を越えて広く知恵・知識を集める必要があります。少しでも関心をお持ちになったら、近くの生産者やJAと話してみてください。」

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