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医工連携は「垣根越える努力」必要

大分大学臨床医工学センター 穴井博文教授に聞く
医工連携は「垣根越える努力」必要

大分大と地場企業のテオリックなどが開発中の福祉機器

 新たな医療機器の開発は医療ニーズと技術シーズのマッチング、医工連携、産学官連携が必要だ。とはいえ、相互に技術や情報提供にとどまる協力や作業分担では本来目指す医療機器の開発、製品化には到達しない。自らの専門分野の垣根を越えて連携先の知識や技術を積極的に学ぶ一歩踏み込んだ態勢こそが、マッチングを成功させる。

【人材が成功のカギ】
 医工連携、産学官連携という言葉は響きがいい。ただ、それぞれの連携は異業種のプレーヤー同士が複雑に絡み合っている。これを一つにまとめるのは至難の業だ。医療機器開発でいえばニーズは医療、福祉現場、シーズは企業、大学の工学部にある。これに行政の指導力も加えると産学官連携になる。今後の連携は協力体制の提供だけでは成立しない。まさにお互いをよく知るために敷居を下げ、垣根を越える努力が不可欠だ。

 大学の使命としては人材育成が何より重要。医療知識を持つ工学系人材、工学系の知識を持つ医療従事者、そして医工学系の知識を併せ持つ企業研究者を育成することが、今後求められる。これらの人材を社会に送り出し、医工連携を構築できれば開発の実現性は一層高まると思う。

 私自身も企業と体外循環用血液ポンプを製品化した。研究の最終目標は小型斜流ポンプを利用する植え込み型の人工心臓だった。だが当初はポンプをどう製作すればよいのかわからなかった。そこでポンプ関連の工学書を読みあさった。同時にポンプを製作できる企業も探した。しかし小型装置のため企業が見つからず、自分の手で削り、精度を確かめた。こうした中でポンプ開発を目指す企業と知り合い、共同開発が始まった。最終目標にこだわっていたら、製品化できなかっただろう。当時は妥協の産物と思っていたが、製品化できたのは共通点を見つけ、共通目標を掲げた結果だと感じる。

【治験病院巻き込む】
 現在、大分大学は大分・宮崎両県が産学官で推進する計画「東九州メディカルバレー構想」を後押しする。2011年に構想の一環で医学部に寄付講座「臨床医工学講座」も設置された。以来、企業との研究開発を実施。臨床現場のニーズ探索やニーズとシーズのマッチングサイトの運営を行い、徐々に臨床現場の敷居を下げてきた。この結果、学内外で医療機器開発への意識の高まりを感じている。

 だがこれで終わりではない。15年4月に同講座を改組、臨床医工学センターが開設した。引き続き同講座で不十分だった支援の課題解決と併せて、全学での支援体制を各部署に働きかけたい。これまで以上に医学部、治験中核病院の機能を活用。両県の構想推進に向け、企業の各開発段階に応じた支援体制づくりを加速させていく。


【略歴】
 あない・ひろふみ 86年(昭61)大分医科大医学部(現大分大医学部)卒、08年大分大医学部付属病院心臓血管外科准教授、12年臨床医工学講座教授。大分県出身、54歳。
日刊工業新聞2015年04月13日 パーソン面「主張」より
三苫能徳
三苫能徳 Mitoma Takanori 西部支社 記者
ビジネスにはいろいろな「連携」がありますが、パートナーである以上、相互理解が欠かせないということでしょうか。特に“共通言語”が使えるようになるまでは、通訳役のコーディネーターも欠かせませんね。

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