日本の未来担う女性研究者、活躍をどう後押しするか

主要国では「博士学生の女性比率が高ければ、研究者に占める女性比率も高い」(文科省)傾向に

2015年度サイエンス・エンジェルとして採用された女性研究者の卵たち(東北大提供)

 大企業に女性登用の数値目標を義務付ける女性活躍推進法が成立し、企業における女性の活躍の場は一段と広がった。しかし、未来の産業を創出する研究分野で働く女性は相変わらず少ないのが現状だ。日本は近年、世界に誇るノーベル賞受賞大国になった。だが、このままでは女性初のノーベル賞受賞者は当面生まれそうにない。  総務省の統計によると2014年3月末時点の日本の女性研究者数は13万600人にとどまる。年々増加傾向にあるものの、研究者全体に占める割合はいまだ14・6%と低い。研究者が10人いれば、8、9人は男性が占める計算だ。ロシア(41・2%)、英国(37・7%)、米国(33・6%)など主要国に比べても、日本の後れが目立つ。  所属機関別にみると、「大学等」における女性研究者の割合が25・0%と最も高く、「研究機関等」では15・4%、「企業」ではわずか8・0%だ。男性研究者は、大学よりも企業に所属する割合が約2倍と高い。これに対して、女性研究者は大学に所属するケースが6割以上と多く、企業が3割程度と“逆転現象”が起きている。  なぜ女性研究者は増えにくいのか。第一に、博士課程に進学する女子学生がそもそも多くはない。文部科学省科学技術・学術政策研究所によると、博士課程の学生に占める女性の割合は30%に満たない。世界では50%を超える国も珍しくない中、日本では研究者を目指す女性の母数が少ないのだ。主要国では「博士学生の女性比率が高ければ、研究者に占める女性比率も高い」(文科省)傾向にある。    日本では、大学入学以前の理系選択から、研究者としてキャリアを積むまでの各段階で困難があるとされる。いざ研究者の道を歩み始めても、「家庭と仕事の両立」や「育児期間後の復帰の困難」「ロールモデルが少ない」などの問題が押し寄せる。これらは15年版男女共同参画白書の「女性研究者が少ない理由」の上位に挙げられている要因だ。  加えて、研究職特有の事情がそこに重なる。代わりの利く仕事と違って、研究者は自ら成果を残さないと次のポストも失いかねない。特に、若手はポスドク(博士研究員)や任期付き雇用など不安定な職に就いていることが多く、短期間で成果を求められる。適齢期を迎えても、「結婚、出産に踏み切れない」(国立大学の女性助教)との声も多い。    それでも、国は継続して女性研究者を支援してきた。06年度に始まった文科省の「女性研究者支援モデル育成」事業の採択機関は、国立大学を中心に14年度に100校を突破した。女子中高生の理系進路選択支援や、出産・子育て支援事業なども科学技術振興機構(JST)を中心に進められてきた。  こうした取り組みの成果として、例えば、東北大学は女性研究者の身近なロールモデルの育成を目指した「サイエンス・エンジェル」活動で注目されている。数字上でも、「自然科学系の女子学部生が16・8%(05年度)から21・7%(12年度)に増えた」と手応えをつかんでいる。  学長直下に組織を作り、トップダウンで改革を進めた香川大学も「女性研究者の比率を目標の19・0%に引き上げ、自然科学系大学院の女子学生に至っては29・0%と目標を超えて達成した」と成果を実感する。名古屋大学は保育園だけでなく学童保育所も開設し、子育てと研究を両立できる環境を整えた。      一方、数少ない女性研究者を抱える企業の意識も変わりつつある。日刊工業新聞社が7月に行った研究開発アンケートでは、有効回答236社のうち、61・4%が「性別」、42・1%が「国籍」を人材多様化(ダイバーシティー)の対象にすると答えた(複数回答)。企業では女性の活用もダイバーシティー戦略の一環としてとらえる向きがある。ただ、女性研究者を分野別に見るとどうだろうか。13年3月末時点の大学等における女性研究者の割合は、看護(90・2%)が最も高く、次いで、家政(81・9%)、心理学(42・6%)が続く。土木・建築(14・6%)や電気・通信(6・9%)、機械・船舶(5・2%)など、日本が強みを持つモノづくり分野で女性研究者が圧倒的に少ない。      国は第3期科学技術基本計画で初めて、「女性研究者の採用割合を自然科学系全体で25%にする」との数値目標を掲げた。第4期ではさらに30%まで高めるとした。だが、これらの数字は現時点で達成できていない。JSTは、「従来の施策を継続しても、20年の女性研究者の比率は16・6%にとどまる」と予測している。  今後は企業における女性研究者を積極的に増やすとともに、分野の一層の多様化が課題だろう。女性研究者のリーダーも育てなければならない。  女性の視点を入れた人事、評価制度の確立も必要だ。年末にも策定される第5期基本計画で、どのような目標が掲げられるのか。日本の行く末がかかっている。    【私はこう見る/日本女子大学名誉教授・元JST男女共同参画主監の小舘香椎子氏】    日本は科学技術立国を目標に掲げて久しいが、少子化と理工系離れによって、科学技術の競争力の低下が危ぶまれている。女性研究者の底上げなど人材の多様化が急務だ。日本では、教育は機会均等であっても、女性の活躍の場が十分ではない。理工系のロールモデルがまだ少なく、将来が見通しにくい。  例えば、女性研究者の割合で日本を追い抜いた韓国は、梨花女子大学に工学部を作り、国と経済界がタイアップして工学分野の女性を育てた。卒業生の多くが企業に採用され、工学を志す女性が増えた。活躍の場が用意されていれば、女性も気後れせず前に進める。  女性に加えて、外国人の登用も重要だが、その前に海外で活躍している日本人のパワーをもっと活用できないだろうか。日本に呼び戻さなくとも、日本語を解し、日本で教育を受けた優秀な人に、国内の研究者と連携しながら国際化の風や人材を送り込んでもらう。そのような仕掛けや施策があってもよいのではないかと考える。 (文=藤木信穂)

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