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どうなるイタリア、どうなるEU。危ぶまれている債務危機再燃の未来

新型コロナウイルスの感染封じ込めを目指す欧州諸国は、外出制限や集会禁止などの都市封鎖を続けている。段階的な制限緩和を開始した国もあるが、全面的な制限解除にはまだ相当な時間が掛かりそうだ。その間の経済活動や国民生活を支えるため、各国政府は歳出拡大、税・社会保障負担軽減、雇用対策の強化、中小企業の資金繰り支援など、大規模な経済対策を打ち出している。厳しい財政規律で知られる欧州連合(EU)は、コロナ危機対応での財政悪化は規律違反を問わない。だが、感染が終息しても政府の借金が消えるわけではない。

中でも債務返済能力の悪化が不安視されるのがイタリアだ。今年の成長率は10%近くの大幅なマイナス成長になることが見込まれ、公的債務残高の対国内総生産(GDP)比率は150%を突破することが確実視されている。イタリアの国債市場の緊張が高まったことを受け、欧州中央銀行(ECB)は先月、コロナ対応の緊急資産買い入れプログラム(PEPP)を創設した。この1カ月余り、巨額の国債買い入れで、イタリアの金利上昇をどうにか食い止めてきた。4月23日の欧州首脳会議では、EUとして一体的なコロナ危機対応策を協議し、財政・金融政策の総動員で危機封じ込めに動いている。

ECBが資産買い入れを強化した後も、イタリアの国債利回りには徐々に上昇圧力が及んでいる。PEPPは年内いっぱいでの買い入れ終了を予定する。イタリアの国債信用格付けは現在、投資適格級の中で下から1番目と2番目に低い水準にある。ECBによる国債買い支えがなくなり、投資不適格級への転落が視野に入れば、国債の売り圧力が一気に加速しよう。市場調達から締め出され、かつてのギリシャのようにEUの財政支援下に入らざるを得なくなるリスクがある。先進7カ国(G7)の一角を占めるイタリアは、経済規模も債務規模もギリシャとは比べものにならない大きさだ。EUの財政救済基金(ESM)にイタリア財政を全面的に支える力はない。

そのため、イタリア発の債務危機再燃を食い止めるには、ECBが2021年以降も巨額の国債買い支えを続けるか、イタリアに返済の必要のない財政支援を提供する以外に手だてはなさそうだ。コロナ危機対応を理由としたPEPPを感染終息後も続ければ、法的論争に発展しかねない。共同債発行や返済不要の補助金を提供することには、財政規律を重視するドイツやオランダなどが消極姿勢を崩していない。今後、感染が終息したとしてもEUには新たな難題が待ち構えている。

(文=第一生命経済研究所主席エコノミスト 田中理)
日刊工業新聞2020年5月8日

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