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マスクを過信していないオーストラリア、「アベノマスク」が学ぶべき現地発の論説

豪ニューカッスル大学・大村講師に聞く

新型コロナウイルス感染症が収束の兆しを見せない中、豪州は他国に先駆けて厳しい入国制限やロックダウン(都市封鎖)を実施。感染者の増加を抑え込んでいる。全国でマスクの買い占めが起こった日本とは対照的に、豪州ではマスクは病人や介護者のものとされ、一般人の着用は多くないという。その豪州で、新型コロナの感染拡大を抑えるにはマスク着用よりも、手洗いと人との接触を避けることが効果的との論説がまとめられ、医療系国際学会誌に掲載された。日本だけでなく世界各地で起こったマスクの買い占めにも一石を投じるものとなりそうだ。論説を発表した豪ニューカッスル大学の大村美恵子講師に新型コロナへの効果的な対策や豪州の現状を聞いた。(取材・飯田真美子)

―日本では政府から1世帯2枚の布製マスクが配られています。
「マスクを入手できない人々に安心感を与えるという意味では良い。だが、マスクを着けることで過度に安心せず、十分な手洗いや表面のウイルス除去、混雑した場所に近寄らない、少なくとも1・5メートルの社会的距離を維持するなどの対策の徹底を人々に周知させることが重要だ。『3密』を避けることが書かれたパンフレットをマスクに同封したことは評価できる。布製マスクは着用者の保護よりも感染者からの感染拡大を防ぐことに意味がある」

―豪州ではマスクは使われていますか。
「豪州では、マスクは病人や介護者のために保留するように推奨されている。最近ではスーパーや薬局で不織布マスクを着けている人が見られるようになった。一般的に布製のマスクは使われず、豪州で布製マスクをした人はまだ見ていない」

―布製マスクの着用は感染を抑えることにつながりますか。
「布製マスクは感染防止に効果がないと考えられてきた。世界保健機関(WHO)は一般の人の布製マスクの使用を推薦していない。だが米疾病対策センター(CDC)はTシャツやバンダナからマスクを作る方法を示し、布製マスクの使用を奨励し始めた。Tシャツの素材よりも、織り目の細かい木綿の方が効果的だ」

―豪州での感染状況はどうですか。
「豪州での感染者は最初は少なかったが徐々に増加した。だが、さまざまな対策を行ったことで現在は検査件数が増えているが新たな感染患者数は減少している。4月24日の時点で、豪州の全人口約2500万人に対し、総感染者は6661人、死亡者は75人、回復者は5045人であると豪州政府が発表した」

―豪州での新型コロナ対策は。
「豪州では早い時期に中国からの入国制限が施行され、世界中にいた豪州人に帰国を要求した。また、生活で必要な基本的なサービスを除き、旅行の制限や自宅での仕事、店やレストランなどの閉鎖といった多くの対策を行った。不要な目的での旅行は禁止され、同じ世帯に住んでいない限り一度に集まれるのは2人までだ。1・5メートルの社会的距離が義務付けられており、規範に違反した場合は罰金が科される。新型コロナの検査と接触者の追跡も実施されている。だが対策を行った分、経済への影響は大きいだろう」

―医療現場での対策はありますか。
「新型コロナ感染症患者の治療をする医療従事者の防護具を確保するために、命にかかわらない手術は一時停止されている」

―大学での授業への対応などはどのようになっていますか。
「豪州の大学では一連の授業をオンラインで提供することが多い。比較的円滑にオンライン教育に移行できている」

―南半球は日本と季節が逆です。日本はこれから夏になります。
「新型のウイルスであるため、季節がこの感染症に影響を与える証拠はまだない。豪州保健省は、特に2020年は新型コロナ感染症と同時にインフルエンザへの感染を防ぐため、高齢者や持病を持つ人にインフルエンザ予防接種を推奨している。豪州の新聞は、新型コロナ感染症への対抗措置は風邪とインフルエンザの罹患(りかん)率を『歴史的に最低』にすることに寄与すると報じた」

―日本は世界から見ると感染者や死者は少ないです。
「豪州の対策に比べると日本政府の対応は緩いように思う。日本は世界的に見て検査数が少ない。日本は100万人当たり1033件の検査を実施した。だが世界では100万人当たり、アイスランドでは13万312件、豪州では1万7961件、米国は1万3067件の検査を実施した。検査数を増やせば感染者数が増加する可能性もある」

―日本の衛生は、海外から見てどのように思いますか。
「日本の感染率が低い理由の一つとして、日ごろの衛生意識や行動規範の高さなどが影響していると思う。日本人は、普段のあいさつで外国人のようにハグをするといった触れ合いがない。日本の低感染率は、社会規範への従順とマスクの着用に起因しているという意見もある」

―日本へのメッセージをお願いします。
「マスクは適切に扱う必要がある。着用前後に手を洗い、着用時にはマスクに触れないこと、布製の場合は少なくとも毎日洗うことが大切だ。新型コロナは便を介して感染する可能性も考えられる。そのため、手を洗うことと手で顔に触れないことの重要性を忘れないでほしい。この困難な時期に豪州にいるが、思いは日本の人々とともにある」(インタビューは4月24日、電子メールで実施した)

感染防止のポイント せっけん20秒使用、手で顔を触らない

豪ニューカッスル大学の大村美恵子講師と山口大学のテリーサ・ストーン特命教授の研究チームによる論説は、マスクの有効性に関する最近の研究と新型コロナ感染症の流行を防ぐために専門家が一般の人にするべきアドバイスをまとめたもの。医療系国際学会誌「ナーシング・アンド・ヘルス・サイエンス」に掲載された。

研究チームは、持病がある人や病人やその看護者以外の人々は手洗いや人との接触を避けることを優先すべきだと主張する。効果的な手洗いは20秒以上せっけんを使って洗うことでウイルスの拡散を防げる。

また、手で口や鼻、目を触らないことが重要だ。新型コロナは金属やガラス、プラスチックなどの表面に最長9日間とどまることができるとされている。そのため、62―71%エタノールや0.5%過酸化水素、0.1%次亜塩素酸ナトリウムを使い、表面を消毒すればウイルスを不活化できる。

透過型電子顕微鏡で撮影した新型コロナ(NIAID―RML提供)

新型コロナは空気感染でなく、接触感染や飛沫(ひまつ)感染が原因とされている。くしゃみやせきをした時のしぶきの中に存在するウイルスは、最大約2メートル飛散する。医療関係者が使うマスクは、ウイルスに対する効果があると認定されている。だが一般に売られている家庭用マスクは感染予防としての機能があるとは言い切れない。

世界中で多くの医療従事者が新型コロナ感染症を発症している。中国では3月中旬までに約3300人の医療従事者が感染し22人が死亡した。イタリアでは2000人以上が感染し、スペインでは3月末に感染総数の14%に当たる約5400人が医療従事者だった。国際看護師協会は3月中旬に新型コロナ感染症で少なくとも100人の看護師が死亡したと報告した。防護服やマスクが足りず医療従事者が患者から感染し、自分自身と患者を危険にさらしている。

特にマスクは一般人の買い占めの影響が医療用マスクにもおよび、生産が追いついていないという。研究チームは、現場で新型コロナ感染症を治療する医療関係者が減少し、医療崩壊することは避けなければならないとしている。

豪ニューカッスル大学講師・大村美恵子氏
【略歴】おおむら・みえこ 18年豪ニューカッスル大医学保健学部看護助産学科博士課程修了、同大非常勤講師などを経て、20年現職。看護学博士。正看護師。山口県出身。
日刊工業新聞2020年5月4日

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