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憂鬱な雨をブランディングに活かすレインコートブランド

文=尼口友厚(ネットコンシェルジェ CEO)雨を楽しむ意義を見出した「Stutterhem」
 自転車の取り締まり強化で傘差し運転が規制対象となったことを受け、レインコートの需要がじわじわとあがってきているようだ。

 自転車に乗っていない人でも、スーツを濡らさないためかレインコートを着ているビジネスマンの姿を見ることも多いが、どうしたものか、かっこいいデザインの製品はあまり多くないようだ。スーツやネクタイ、革靴はビシッと決めていても、その上に羽織っているカッパがどこか垢抜けていない印象を与えてしまう。

 そこで今回は、従来のレインコートのデザインを一新して普段着の上着としても着こなせそうなデザイン性の高いレインコートを販売しているブランド「Stutterheim」をご紹介しよう。
https://stutterheim.com/jp/

 Stutterheimはスウェーデンのストックホルムにおいて2010年に設立された。その美しいデザインから、2013年に1100万スウェーデンクローナ(約1億6090万円)、2014年に2300万スウェーデンクローナ(約3億3650万円)、2015年に5500万スウェーデンクローナ(約8億460万円)の売上をあげている人気サイトだ。

 亡き祖父愛用のレインコートからインスピレーションをうける

 Stutterheimの創業者はAlexander Stutterheim(ストュテルヘイム)氏。1995年にスウェーデンのカルマール大学を卒業して会社員になり、2002年からはフリーランスのコピーライターに転身した。

 ストュテルヘイム氏が起業の着想を得たのは、2010年の夏頃のこと。ストックホルムにて、大事な顧客とのミーティングを控えていた同氏は、クリエイティブで雰囲気のある、ビジネスマンらしいイケているスーツを用意して臨んだ。

 ところがそのミーティングの当日に雨が降った。普段雨の時には傘をさしていたが、ちょうど傘が壊れてしまっていたこともあり、スーツを守るためにレインコートを着た。しかしこのレインコートが、ホームセンターで売られているようなゴアテックスのレインコートで、まるでデザインが良くなかった。ストュテルヘイム氏はレインコートを着る自分の姿を見て、まるで登山に出掛ける人のようだ、と思ったという。

 コーヒーを飲みながらミーティングに参加する他の人がどんな服装で来るのか見てみると、みなも自分と同じような格好だった。クリエイティブな業界で働いているスタッフでさえ、レインコートに関しては全くイケていなかったのだ。

 ストュテルヘイム氏はその一週間後、自分が欲しいと思っていたようなデザインのレインコートを発見する。それはなんと亡き祖父の持ち物で、釣りに行く時に着ていたものだった。さすがに長い年月が経過し、古くなっていたこと、またサイズが自分には合わなかったことからこのレインコートを着ることはなかったが、おそらく似たような製品が売っているだろうと思い、ストックホルムの都市部で探してみることになった。

 ところが、祖父のレインコートに似たレインコートを見つけることはとうとうできなかった。街に出回っているのは、「イケていない」と感じるゴアテックスのレインコートばかりだったのだ。ないなら自分で作ってしまおうと、ストュテルヘイム氏は仕事の合間をぬってレインコートを作りはじめることになる。

 プロトタイプを作りあげると、その品をスウェーデンの縫製工場に持っていき、200着を製作。広告にはあまりお金をかけられなかったので、製造の様子を収めた写真をfacebookページにアップして販売を開始した。口コミのみの販売ではあったが、レインコートはすぐに完売したという。やがてECサイトを通じてスイス国内のみならず国外からも多くの注文が来るようになり高級衣服の小売店でも取り扱われるようになった。

山口豪志
山口豪志 Yamaguchi Goushi Protostar Hong Kong 董事長
雨の日、外出や行動が制限されてしまうのは世界共通の悩み。その雨天を楽しくするための道具、それに課題意識を設定して憂鬱に向き合うというこの企業はとても好感が持てるし、こういうブランドストーリーはとても価値が高いと感じる。共感型のビジネスは益々伸びて拡がって行くだろう。

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