【連載】よくわかるCOP21(5)

COP21後のシナリオ。中国は排出量取引制度を全国に拡大

 日本の温室効果ガス排出削減目標の26%減が「他国と遜色のない」高い目標なのか、議論を呼んだ。 EUは30年までに90年比で40%減を目標とする。しかも「少なくとも」とただし書きがあり、40%以上の達成を目指している。EUの目標の基準年を05年に置き換えると35%減となる。米国の「25年までに05年比26-28%減」も目標年を30年、基準年を05年比にすると34-37%となる。日本の目標も基準年をそろえると05年度比25・4%減となる。それぞれの国内事情を考慮せずに数値だけを比べると、日本の目標は先進国で高い方ではない。  一方で、実現可能な数値かどうかという視点も重要だ。日本の26%減は現状の省エネ技術や低炭素施策を積み上げて作られた。高すぎる目標を掲げて未達に終わるよりも、施策の動員やさらなる技術革新次第で手の届く達成可能な目標といえる。  省エネ施策の中身も公表されている。照明はほぼ100%をLEDなど高効率型に切り替え、工場で給湯に使うボイラーは高効率型の普及率を71%にするなど、詳細に数値を検討した。  部門別の対策も示した。工場など産業部門は6・5%減が目標。温暖化対策が遅れているビル・商業施設などの業務部門、家庭部門はともに40%の削減が目標だ。施策も部門別に検討されており、業務部門であれば低消費電力のコピー機が370万台(現状は342万台)、省エネ型サーバーが319万台(同297万台)、ビルエネルギー管理システム(BEMS)の普及率が47%(6%)とした。  家庭部門については新築住宅の省エネ基準適合化と既築住宅の断熱改修が30%(同6%)、ヒートポンプ式給湯器が1400万台(同400万台)、エネファームが530万台(同5万台)、家庭用エネルギー管理システム(HEMS)がほぼ100%(0・2%)。  機器の導入には投資が必要だ。政府は検討されたすべての機器導入のコスト負担額をはほぼ37兆円と試算している。26%減の達成には電源構成の実現とともに、補助金など機器の普及を後押しする政策が求められる。  EUは排出量取引制度の維持・拡大を狙う。他の場所で削減した排出量をクレジットとして購入し、自らの削減量としてカウントするのが排出量取引だ。削減目標を達成できない事業者はクレジットを購入して未達分を埋め合わせできる。高い目標であるほど自らの努力だけでの削減達成は難しくなり、目標達成の手段としてクレジットの価値が高まる。  EUは「EU ETS」と呼ばれる域内の排出量取引制度を運用しているがリーマン・ショック後、経済活動が停滞すると排出量が自然と減少し、クレジット価格は暴落した。  EUがCOP21に向け高い目標を掲げ、他国にも厳しい目標策定を迫る背景には、排出量取引制度を維持・拡大したい思惑もありそうだ。  米国はオバマ大統領が火力発電所への規制強化に意欲的だが、排出削減は燃料需要の抑制につながるため国内エネルギー関連産業からの抵抗が大きいはず。石炭火力発電所は操業を続けるにはCO2の回収・貯留装置を取り付けるなど対策費もかかる。コスト負担に耐えられない発電所は廃炉を迫れる。  反発が予想されてもオバマ大統領が規制強化を打ち出せたのはシェールガス革命のおかげだ。火力発電所のCO2排出量は燃料によって違い、石炭が多く、天然ガスは少ない。シェールガス革命で天然ガスの一大産出国となった米国では、天然ガスを燃料とした火力発電所が増設されている。  中国は温暖化対策に本腰を入れると考えられる。温室効果ガスの排出削減というよりも、深刻化する大気汚染対策が当面の狙いだ。PM2・5など健康被害の原因物質を排出する石炭火力への規制を強める。CO2の回収・貯留技術や再生エネの大きな市場になる可能性を秘めている。天然ガスへの転換を進めると、ガス産出国にとって中国は巨大市場となる。  大気汚染を克服した日本にとっても中国は環境技術の輸出先として魅力的だ。もちろん欧米企業も虎視眈々と狙っている。しかし中国は自国の産業として環境ビジネスを育成することも十分にありえ、日本企業は厳しい競争にさらされる。  また中国は、地方レベルで実施している排出量取引制度を全国規模に拡大する方針だ。規制強化は現地の日系製造業の操業に影響が出る。 (9月25日、オバマ大統領との首脳会談で中国・習近平首相が排出量取引制度を17年から全国に拡大すると表明)

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