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村田製作所のもう一つの強さ「オープンイノベーション」が価値を生む

キーマンが語るブラックボックスと対極の戦略とは
 技術企画部オープンイノベーション推進チーム・マネージャー 牛尾隆一氏

価値創造型サプライチェーンにも通ずる、今注目の取り組み


 村田製作所はグループ全体で売上高1兆円、従業員5万人超の電子部品メーカー。市場は携帯電話・スマートフォンやパソコン、デジタル家電などが中心で、近年は自動車、ヘルスケアなどの新規分野に力を入れている。
 
 売上高は順調に推移しているが今の状態がいつまでも続くとは思っていない。既存事業の拡大だけに頼っていては継続的な成長は難しいと考えている。そうした中、オープンイノベーションは新しいものを生み出すためのツールの一つとして有効だと考え、今の取り組みが始まった。

 社内のことが分からないと外に出ていっても何もできない。そこで、まず技術の棚卸しを行った。商品と要素技術のマトリクスと併せて、技術と機能によるマトリクスを作成した。機能軸があれば「こんなことがしたい」というニーズに対して、それができる技術を探すことができる。
 
 現在当社には20のコア技術がある。積層セラミックコンデンサーでいえば材料設計技術や積層技術などこのコア技術を使っている。これらの技術を使ってどのような新しいモノが生み出せるのかを考えることが求められている。

 当社は材料からプロセス、設計、生産までの技術を一貫して持っている垂直統合が強さだ。それゆえ、詳細は機密とするブラックボックス戦略を取ってきた。しかし、オープンイノベーションは対極にある。相手に手の内を隠していては新しいことは始まらない。

 異なるコア技術を持つ企業と連携し市場を創出する

 オープンイノベーションは一般に「外部のアイデアと技術を積極的に活用して新製品を作る」「内部で開発された技術を外部に送り出し新たな事業を創出する」ことと理解されている。内閣府は2010年に「将来の新製品・新市場のコアを握るキーテクノロジーの創成を巡る外部との協業」と再定義した。コア技術を一緒に作るということだ。

 当社では従来のオープンイノベーションを、外から技術を持ってくる「課題解決型」と、保有技術の使い道を探す「ニーズ探索型」の二つに分類している。それに加えて新規テーマ(価値)創出型オープンイノベーションに最も注力している。新しい価値を生み出すため、何を始めたらいいのかを決める段階から外部の人と考えようということだ。

 オープンイノベーションで狙うのは「技術は持っている・市場は形成されていない」という領域。既存の技術を生かして、新しい市場を作りたいと考えている。1社の保有する技術だけでは新たな市場を創出することは非常に難しく、異なるコア技術を保有する他社との連携による市場創出を目指している。

 企業間連携は、お互いの強みで補完し合えることが理想だ。人もまた重要だ。本気になってやってくれる人を探し当てないとうまくいかない。実際にやることになった時に社内でリソースの獲得が必要だからだ。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
オープンイノベーションに取り組む企業が増えてきているが、原則は、最初の段階で自社の技術やノウハウ、戦略をオープンにすることになる。「オープン」というだけでに本来はこれまでつきあいがなかった企業も対象にしたいだろう。そうでなければ、従来の共同開発とあまり変わらないかもしれない。ただ、牛尾さんも指摘しているように「信頼」関係は重要なんだと感じる。スピード感とどう折り合いをつけるか。村田のような会社がどんどん成果を上げれば、他の日本企業も刺激になるはず。

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