ヒエラルキーをなくしたフィット、ライフスタイルごとに寄り添う色とは

色が変えるビジネス #3 ホンダ

 

家族と出かける、アウトドアやフィットネスを楽しむ、大人のゆったりした時間を過ごす―そんな瞬間に馴染み、ともに出かける車は一体どんな色・形をしているだろう?  ホンダが2月に発売した新型「FIT(フィット)」は、同じ型ながら、内外装色の違いを持たせ多様なライフスタイルに寄り添う車を提案している。目指したのは、日常で使える機能と美しさを両立させた「用の美」だ。 初代フィットは2001年に発売、2月に発売されたものは4世代目にあたる。2~3代目では機能面拡充が主軸となっていたが、4世代目ではふたたびデザインから進化させることに取り組んだ。3代目は女性からの評判が低いという声もあったという。  「フィットのようなコンパクトカーのお客様は、車に詳しくない方も多いです。性能の上下や仕様装備によるヒエラルキー、数値での比較ではなく、お客様の価値観やライフスタイルに寄り添うべきだと考えました」(本田技術研究所オートモービルセンターCMFデザイナー落合愛弓氏)。 4代目のコンセプトを作るにあたり、取り入れられたのが本田技術研究所で行われてきた「人研究」の1つ、「潜在ニーズ調査」だ。数百枚の画像を用いて、設問に合わせて直感的に画像を選んでもらい、インタビューを行うという独自の調査方法で、コンパクトカーに求められる潜在ニーズを発掘。その結果、「心地よさ」と「日常で使える機能」を兼ね備えた「用の美・スモール」を追求することとなった。  さらに2020年のライフスタイルやトレンド情報をもとに、価値観、生活がどのような空間で、何を身に着け、誰とどのような行動をしているのか等を予測。それらを反映させた「BASIC」「HOME」「NESS」「CROSSTAR」「LUXE」の5つのタイプを構築し、デザインや内外装を作りこんでいった。各ネーミングも、あえて車業界では使ってこなかった一般的な言葉を使用した。  また、従来はグローバルを意識した部分が大きかったが、今回は改めて日本の人と暮らしに焦点を当てたデザインとなっている。 「どういったことにこだわるかのプライオリティは5タイプそれぞれ異なるため、バリエーションの全体像を捉えながらデザイン的には異なる特徴をつけています」(落合氏)。  5タイプは、「ライフステージ」と「ライフスタイル」で展開している。  ライフステージは、初めて車を購入する新社会人や子どものいない若い夫婦に向けた「BASIC」、仕事と育児を両立する方やヤングファミリーへの「HOME」、子育てを終え新しい生活を充実させたい人への「LUXE」。  ライフスタイルは、トレンドを反映した幅を広げるため、健康的にスポーツを楽しみたい人への「NESS」、仲間とアクティブに趣味を楽しみたい人への「CROSSTAR」を用意した。 「CROSSTAR」では、サーフィンやスノーボード、キャンプなど、仲間と一緒に気軽に趣味を楽しむ若者たちからヒントを得た。「本気の装備を完璧に揃えることよりも、みんなからの共感を大切にすることから、親しみやすいムードメーカーのようなキャラクター性を高めたソリッドカラーとしました」(落合氏)。世界観を表現する限定色として、明るい水色の「サーフブルー」を作り上げた。 「NESS」では、体を楽しく動かしたり食事に気遣ったりするウェルネスなイメージを目指した。「車の運転が得意ではないけれど、楽しく走れそうな予感がする。体育会系ではないけれど、新しいスニーカーを買ってランニングを始めてみたいといった、そんな気持ちに答えるものです」(落合氏)。  フィットの特徴である細いピラー(屋根とボディをつなぐ柱)など、機能的な意味をもった部品を中心に、フィットネスウエアのようなライムグリーンをポイントで取り入れ、アクティブな印象を持たせている。鮮やかな色は使う面積によって色の印象が大きく変わる。細いラインとボディ色のバランスが最適になるよう、明度や彩度をチューニングした。 内装も、アクティブな「NESS」「CROSSTAR」には撥水シート、「LUXE」では本革など、それぞれに合わせた仕様となっている。   各タイプの根底に共通するのは「心地よさ」だ。人研究の結果から、例えばスポーツといってもストイックな競争ではなく体と心にやさしく健康的なイメージが導き出され、表現されている。それぞれに合わせた、全体的に優しさを感じる配色や色調となっている。 5つのタイプを用意したことで仕様のバリエーションが大幅に増えたように感じるが、全体の仕様総数(グレードやオプションなどの組み合わせ)は半減している。  オプションの組み合わせで増えてしまうバリエーションを、5つのタイプに束ねることで削減。従来あった「選択肢が多すぎても選ぶのが難しい」という意見に対し、ライフスタイル別の切り口で選択し、それにあった内外装色やオプションを絞り込んでいけるようにした。  「5つのタイプそれぞれを色・素材・形で特徴づけながらも、全体がシンプルで無駄のない構成とするために、各部門との綿密なコミュニケーション、連携が必要でした。携わった方々が一丸となって、シンプルなデザインとバリエーションの魅力が伝わるよう、最後まで一緒にやりきっていただいたので本当に感謝しています」(落合氏)。 4代目フィット全体では25色展開となった。その中でも「訴求色」としてチャレンジした「白」の開発には苦心したと落合氏は振り返る。  世界的に見て、特に日本では、ホワイト~シルバー系が選ばれる比率が高い傾向にある。フィットとしても、ホンダ全体でもホワイトはそれぞれ比率が高い。白は生活に寄り添い、日常になじむ色。4代目フィットの目指す「用の美」を表すような存在だ。  しかし白は形が見えにくく、プロモーションでもビジュアルが映えないなどの難しい面が多い。「それでもシンプルで心地良い車はお客様に喜ばれるはずだという確信がありました。どんな環境下でも形が美しく見えるように実寸で何度も吟味し、使われ方を想定して微妙な明度・色相のグレースケールを調整し、訴求に使われるたった1枚の画像や、シート素材の一本の糸の撚り方にまでこだわりました」(落合氏)。 車にとって、デザインの重要度は増している。「現在では全体的にクルマそのものの完成度が高く成熟しており機能的な差が大きくない為、老若男女問わずより感性的な価値を重視するフェーズに入ってきている」と落合氏は見る。そんな中でも色は、直感的にその車の持つイメージを伝える要素の1つだ。「特に(新型フィットの目指した)『数値では語れない価値』をいかに予感させ魅力を伝えるか、そのために効果的に役立てると良いと思っています」(落合氏)。 【特集・色が変えるビジネス】  商品やサービスのイメージを伝え、消費者の心を直感的に掴む「色」。その背景には、トレンドを細かく分析したり、世界観を作りこんだりと各社の綿密な戦略がある。色が変えゆくさまざまなビジネスを取材した。

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