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粗鋼生産、8カ月連続減少。適正化へ“負のサイクル”を抜け出せるか

中国の減産が続くも、需給ギャップの解消は長期戦に
粗鋼生産、8カ月連続減少。適正化へ“負のサイクル”を抜け出せるか

世界の粗鋼生産量

 世界鉄鋼協会がまとめた8月の世界65カ国・地域の粗鋼生産量(速報)は、前年同月比3・1%減の1億3222万トンで8カ月連続のマイナスとなった。全体の半分を占める中国が同3・5%減の6694万トンと8カ月連続で減ったため。成長鈍化による減産が続いている。2位の日本(同5・8%減)、4位の米国(同9・7%減)、5位のロシア(同3・2%減)も減少した。

 一方、3位のインドは同2・8%増、6位の韓国は同2・8%増だった。また、欧州連合28カ国は引き続き、7位のドイツが同10・7%増で全体をけん引し、同0・1%増とわずかに前月を上回った。

OECD「政府の関与、市場ゆがめる」


日刊工業新聞2015年2月26日付


 経済協力開発機構(OECD)が世界の鉄鋼需給の適正化に向けた取り組みを本格化している。高炉など新規の投資案件について、各国政府の支援の有無などを調査することで合意し、新規案件の詳細をリストとして公表した。

 世界の鉄鋼市場は世界的な供給過剰を背景に市況が低迷。各国鉄鋼業の経営を圧迫し、政府が貿易救済措置を乱発するなど“負のサイクル”に陥っている。OECDは投資案件の調査・公表により供給過剰への抑止効果を期待している。

 2014年12月に開かれたOECDの会合。12年から鉄鋼製品の生産能力過剰問題が議題として上がっていたが、この会合では、新規投資の支援や不採算企業の撤退を遅らせる補助金など政府の関与が市場をゆがめているとし、実態調査を始めることで合意。供給過剰問題への対応の必要性を世界の共通認識とするため、報告書と投資案件リストをまとめた。

 世界の鉄鋼製品の需給ギャップは拡大の一途だ。14年の世界粗鋼生産量は16億6152万トンで過去最高を更新した。中国やインド、韓国などで生産量が過去最高を更新。世界の鉄鋼製品の需要を上回る急激な能力拡大が需給ギャップを招いている。

 OECDの推計では15年は世界の粗鋼需要約16億5600万トンに対し、粗鋼生産能力は23億1000万トンとなり、約6億5000万トンのギャップが生じると見る。
 

「商業的に成り立たない」のになぜ高炉は新設される?


 供給過剰が解消せず、むしろ拡大するのはなぜか。その背景には自国の鉄鋼業を守りたい政府の意向があり、「政府が市場をゆがめ、市場原理が働かない」という指摘がある。

 その一例が13年12月にインドネシアで稼働したクラカタウ・ポスコだ。韓国ポスコとインドネシア・クラカタウの合弁による高炉事業で、現地で厚板を供給するが、当初から「商業的に成り立たない」と言われていた。採算性が合わない事業が成り立つ背景には、政府系金融機関の韓国輸出入銀行が支払い保証をするなど韓国政府の手厚い支援がある。

 インドネシアで鋼材需要が思うように伸びない中で、クラカタウ・ポスコはアジアへの輸出拠点に変貌した。高炉の稼働率が向上した14年後半以降、隣国マレーシアへの厚板輸出が急増。マレーシアでは厚板に対しセーフガード(SG)調査を始めることとなった。
 
 世界の通商摩擦の中で鉄鋼分野はとりわけ多い。全世界での貿易救済措置の件数のうち、鉄鋼業界の比率はアンチダンピング(AD)措置で約25%、補助金相殺関税(CVD)で約40%を占めている。

 今後もアジア各地で高炉建設が予定されており、供給過剰は当面続く見通しだ。OECDは6月開催予定の閣僚会合でも供給過剰問題を取り上げ、状況を注視していく意向だ。
日刊工業新聞2015年09月25日 素材面
村上毅
村上毅 Murakami Tsuyoshi 編集局ニュースセンター デスク
世界の粗鋼生産量は15年暦年でみると、リーマンショックで減少した09年以来、6年ぶりのマイナスとなる模様だ。特に中国が歴年でマイナスとなれば、34年ぶりのマイナスとなる。OECDの報告書にもあるように、鋼材需要の適正化に向け世界的に取り組んできている。生産量のマイナスはその一里塚ともいえるが、需給ギャップの解消にはまだまだ時間がかかりそうだ。

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