“アナ雪効果”で人気はパープルへ。刻々と変わるランドセル戦線

色が変えるビジネス #4 ランドセル

 

ランドセルというと、赤と黒をイメージする人が多いだろう。しかし、2019年の女児向け人気カラーは紫なのをご存じだろうか。さらに値段も右肩上がりに上昇、販売も入学の1年以上前からスタートする。変わりゆくランドセル事情を取材した(昆梓紗)。   ランドセルのカラーバリエーションは2000年代初頭に増加した。  2001年にイオンは24色ランドセルを発売。それまでは1型に多くても6色で、女子向けでは赤を中心としてピンクやローズ、男子向けでは黒とネイビーというバリエーションだった。そんな中で当時の担当者が「子どもは今、与えられた中だけでランドセルを選んでいる。もっとたくさん色があったら、絶対自分の欲しい色を選ぶのではないか」と考え、24色展開を決めた。  「カラーバリエーションは生産効率に工夫が必要です。素材、部品それぞれのメーカーに何度もお願いしてどうにか受け入れてもらえたそうです」(イオンリテール キッズリパブリック事業部の綿引一浩氏)。 スタート時には不安があったというが、いざ発売してみると好調で、現在でも継続して24色展開の「はなまるランドセル」を発売している。2007年からはカスタマイズも行っており、本体だけで140万通りの組み合わせができる(※)。  20年販売してきた中で、カラーバリエーションも毎年少しずつ変化させている。現在では男子に人気の黒が5色(ステッチの色の違い)になっているほか、今年は女子に人気のパープル系にラベンダーを追加。またバリエーションの幅を持たせるためレモンとライムを取り入れた。 ただし24色とはいえ、男子向け、女子向けが分かれるようなデザインになっている。「売り場を見ていると、男子でもピンク、女子でも黒を欲しがるお子さんもいます。ニーズが増えていけば性別を問わないデザインにしていく必要があるかもしれません」(綿引氏)。  もちろん売れ筋とそうでない色がある。動きが早いものは1年に何度か生産、にぶい色は数年かけて販売する。20年間販売してきたことで、予測が立てやすくなった面も大きい。「24色ランドセルがイオンの顔のようになってきたので、しっかり継続していこうと思っています」(綿引氏)。 現在ランドセルの約70%に使用されている人工皮革「クラリーノ」メーカーのクラレでは約200色を製造している。各ランドセルメーカーからの色指定があり、それに応じた開発を行っている。さらに「シボ」(型押し)により表面の表情を微妙に変えることで、色に加えたバリエーションを持たせている。1年で約90万平方メートル(ランドセル約70万本分)を生産している。  カラーバリエーションが増える一方で子供の数は減少。小量多品種生産が必要になっていった。生産量の調整をしながら1年で何度も生産していると、ロットによって色のブレが起こりやすいものがあるという。  「カラーバリエーションに対応できたことが、メーカーからの信頼につながり、クラリーノのシェア維持にもつながったと思っています」(クラレ クラリーノ事業部 ライフスタイルマテリアル部の原寛斉氏)。 またランドセルは過酷な条件下で使用される。6年間ほぼ毎日使用され、傷や擦れなども起こりやすい。例えばランドセル前面の「カブセ」はしなやかに屈曲し、肩紐や底の角は頑丈でなければならない。その中で色ごとに材質が微妙に異なるため物性試験を行ってきた。特に淡い色は傷や日焼けなど劣化が目に見えやすい。高耐久性をクリアすることに苦労した。「今では知見が増えたので、色による傾向の違いに細かく対策できるようになってきました」(原氏)。 イオンでは、販売するカラーバリエーションは前年の売上だけでなく、アニメやテレビ番組、ファッションなどのトレンドをみて企画している。  2020年入学では、女児向けではピンク系が一番多く約25%。パープル系はここ3~4年シェアを維持し、25%。今回シェアを増やしたのが薄いブルーで17%、エメラルドグリーンも人気が出ている。また昔ながらの赤は10年ほどはほとんど出ていなかったが、ここ3~4年ほどでシェアが増え11%ほどまで上がってきた。  一方男児は黒が75%(ステッチやラインなどで色がある)。  人気色のトレンドは3~4年で入れ替わるような動きだという。 クラレではカラーバリエーションは2001年から増え、今はやや横ばいとなっていると話す。  女児向けはピンク・赤がメイン色ではあるが、減ってきた。2010年にはピンク・赤が5~6割、特にピンク系がほとんどだった。ただし2019年にはピンク・赤が3割に、パープルが3割。パープルが1位の地域もある(2010年には1割に満たなかった)。また2010年代には刺繍をたくさん取り入れるのが流行したが、現在ではワンポイントが主流になってきている。  現在パープルが人気なのはディズニーの映画『アナと雪の女王』シリーズの効果とみられ、人気色は流行をビビットに反映している。  男児向けは7割が黒、ただステッチなどでバリエーションを持たせるようになっている。ネイビーや青が2割以下である。 デザインだけでなく、機能も多様化し充実している。  イオンでは2011年にA4クリアファイル(幅22センチメートル)が入るサイズ、その後さらに大きいA4フラットファイル(幅23センチメートル)が入るサイズを発売した。現在ではこのサイズが定番となっている。子どもの荷物も増えているので、幅だけでなく、マチも広くなっている。  また2021年モデルから、タブレットケースを付属した。政府は2023年までに小学校で児童が1人1台タブレット端末を持ち、活用できる環境の実現を目指しているため、そこに対応した形だ。  また軽量化のニーズも高まっており、従来よりも150g軽い1050gの軽量タイプも新たに発売。体に合った持ち方ができるよう、肩ベルトの調整が簡単にできるデザインも用意した。 イオンでは2021年モデルとして270種類、プライベートブランドの「トップバリュ」としてそのうち90種類発売する。ここ数年で種類も増加している。 デザイン、機能の充実により、価格は年々上昇してきた。少子化により1人あたりにかけられる費用も増えているという購入者側の背景もある。子どもが主体となって親と選び、お金を出すのは祖父母、という家庭が多い。そのためプロモーションもウェブだけでなく、祖父母向けにパンフレットを充実させるなどの工夫も行っているという。 価格上昇に比例するかのように、ランドセル購入時期も前倒しになっている。 2010年ごろまでは入学する年の1~3月だったが、2015年ごろは入学する前年の8月がピーク、2019年にはさらに早まり入学する前年の5~6月となっている。 なぜ前倒しになってきたのかの理由はいくつか考えられる。  少量多品種化したことにより、必要な分だけを受注生産したいというメーカーの思惑や、他社に先駆けて発売するためもある。  また購入者側も、1つひとつの生産量が少なくなったことで「欲しかったものが売り切れ」という事態が起こりやすくなっているため、希望のランドセルを購入するために早期に動き出している。 早期化に伴い受注生産の割合が多くなっているため、見込み生産をして在庫が残るというリスクは減った。しかし「販売期間が1年以上と長期化したため、プロモーションや売り場対応などへの負担は大きくなっている」とイオンの綿引氏は話す。 少子化による販売数の減少や、2018年には「荷物が多くランドセルが重すぎる」という報道など、ランドセルをとりまく環境は厳しい。そんな中でも価格の上昇や販売ピークの早期化などが起こり、購入者の熱意は高まっている。ニーズを的確にとらえ、色やデザイン、機能の幅を広げるといった取り組みが奏功している結果だろう。  「カラーバリエーションに対応できていなければランドセルを買いたいと思う人が減り、ランドセル文化自体がなくなっていたかもしれません」と原氏は振り返る。  「ランドセル文化は100年以上続いており、購入する親や祖父母も自分たちが使っていたという記憶があるので思い入れがあります。また、小学校入学は子どもにとってはじめての一大イベントで、その象徴となるのがランドセルです」(綿引氏)。  子どもの成長を象徴するランドセルを進化させる取組みは続く。 【特集・色が変えるビジネス】  商品やサービスのイメージを伝え、消費者の心を直感的に掴む「色」。その背景には、トレンドを細かく分析したり、世界観を作りこんだりと各社の綿密な戦略がある。色が変えゆくさまざまなビジネスを取材した。

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