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見直すべきか…高卒者の就活「1人1社制」の是非

政府は、高校卒業者の就職慣行である「1人1社制」を見直し、複数企業へ応募できるよう各都道府県に働きかける。生徒が主体的に自由に就職活動ができるよう選択肢を広げるのが狙い。大阪府教育委員会などは2022年春入社(21年就活)から複数企業に応募・推薦できるよう改める方針。見直しに慎重な自治体も多く、実情に即した対応がとられることになりそうだ。(取材=編集委員・山中久仁昭)

文部科学、厚生労働両省の高校就職問題検討会議は高卒者の就活について、都道府県ごとに「1次応募時から複数応募・推薦」「1次応募までは1社のみ、2次応募以降は複数応募・推薦」のいずれかを選ぶのが妥当との方針を示した。ハローワーク経由だけでなく、民間事業者から情報収集が可能なことも周知すべきだとしている。

高校が就職希望の生徒1人当たり1社をあっせんする制度は、秋田と沖縄を除く都道府県で定着。企業はハローワーク経由で高校に求人票を出し、教員は生徒と話し合って応募企業を決めてきた。

1人1社制では、生徒が卒業後すぐに安定した仕事を得られる。地場の有力企業などには安定した人材確保策として有利な半面、新規の進出企業からは「既存の制度が壁となり、学校と信頼関係が築けない」との声もある。

少子・高齢化が進む中、普通高校、職業高校を問わず、一定数いる就職希望者は「地域経済の担い手」(内閣府)だ。ただ、全国の高卒者に占める就職者は現在18%弱にとどまる。「数十年も前の大量求人時代からの慣行は現代にそぐわない。就活時のミスマッチによる早期離職もみられる」との意見もある。

1人1社制について労働政策研究・研修機構は、高校側に「企業との信頼関係維持、生徒の就活の負担軽減」、企業側には「少ない内定辞退リスクと採用関連費用」とそれぞれの利点があるとみる。

今後の対応は各都道府県が決める。大阪府内では従来1人1社制を採用。22年の入社を控える高卒予定者から複数企業への応募を可能にするなど、選択肢を広げる考えだ。

埼玉県は現在、9月半ばの就職試験までは1社のみの応募・推薦、10月1日以降は2社まで併願可能。ある工業高校の校長は「企業側の期待も大きく、さまざまな手続きや事務処理を考えると現方式がよい」と話す。

静岡県では1人1社制が原則。「就職にかかわる時間も手間もコストも教員、生徒、企業それぞれにメリットがある」(普通高校の校長)と現行方式の維持を求める声がある。

日刊工業新聞2020年3月17日

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