建設業の労働災害防ぐVRソフト、無償提供で得た利益より大切なもの

危険体感訓練では取引先の要望に合わせたメニューを用意できる

仮設機材レンタルの杉孝(横浜市神奈川区、杉山信夫社長、045・444・0835)は、取引先の建設関連企業に対し、足場の安全に関するコンサルティングを手がける。2007年5月に専門部署を設立してサービスを開始し、19年4月末時点で累計10万人以上に提供している。仮想現実(VR)による足場からの墜落体験など最先端の技術を活用して取り組む。 杉孝がコンサルティングを始めた背景には建設業で労働災害が多いことである。厚生労働省のまとめによると、18年の労働災害の死亡者数は909人。このうち309人が建設業で全業種の中で最も多い。さらに建設業の死亡災害の原因をみると、墜落・転落が136人と最多で、うち80%は足場によるものだという。 ただ、労働災害が多い建設工事現場に優れたハードの高品質な機材を供給しても、取り扱い方を間違えれば事故が発生する。この労働災害の原因として「ソフトの問題も大きい」(杉山社長)と認識したことが、コンサルを始めるきっかけとなった。 杉山社長は「形だけではなく、本当の意味で役に立つソフトはないか」と探したが、模範となるものはなかった。そこで「自社でソフトを作るのは難しいが、今のままではいけない。いずれ誰かがやらなくてはいけない」(同)と考え、手探り状態でスタートした。 当初は足場安全コンサルティング部の部員は1人だったが、担当者を増強して十数人になった。それに伴い内容も充実。仮設安全管理者資格保有スタッフによる足場点検や足場に関する安全講話、危険体感訓練、新入社員・若手監督向け足場安全研修会、安全教習など多岐にわたる。危険な足場を組み、その箇所をチェックするテストなど取引先の要望に合わせたメニューを用意できるのが特徴だ。 さらにVR技術を駆使して、高さ20メートルの足場からの墜落を体験する教育も行っている。通路が片付けられていないなど実際の事故事例に基づき、事故がおこりやすい場面をコンピューターグラフィックス(CG)で映像化したものだ。現在は改修工事、架橋工事と2本のコンテンツを用意する。3本目の制作も検討している。 体験者からは「墜落とは、こんな一瞬におこるものなのか」「実際の足場には慣れており、恐怖心はなかったものの、いつ墜落するか分からない緊張感があった」などの感想があり、安全意識と足場知識の向上に寄与している。杉山社長は「建設現場での労働災害は減少傾向にあるが、これをゼロにしなくてはいけない」と言葉に力を込める。 社会貢献の一環で、これまで無償で行ってきたが、「5、6年前から料金を払わせてくれという取引先が現れてきた」(杉山社長)。同社のコンサルの品質も業界で評価されつつあるようだ。直接的な利益は生まないかもしれないが、利益よりも企業にとって大切な信用を生んでいる。(取材=千葉編集委員・中沖泰雄)

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