アバターがオフィスに出勤、9割が遠隔で働く企業に生まれた文化

連載・副業市場 遠隔マネジメント#03

舟越社長(右)とフィオさん。リアルのオフィスとバーチャルなデスクがつながっている

100人規模の組織ながら9割が遠隔で働く株式会社がある。HIKKY(東京都渋谷区)では取締役がコンピューターグラフィックス(CG)のアバター(分身キャラクター)でオフィスに出勤する。「動く城のフィオ」として活動し、中身は妻子持ちのおじさんだ。自宅でパソコンのキーボードをたたくと、画面のフィオの指も連動して動く。身体がその場にないだけで、一緒に働く環境がある。 「フィオさんのお子さんは生身のフィオさんもアバターも『お父さん』と認識している。生身の私もアバターの私も『シャチョー』と呼んでくれる」とHIKKYの舟越靖社長はほほ笑む。仮想現実(VR)を含めて家族ぐるみの付き合いになっている。 HIKKYは巨大ロボット工廠(しょう)や魔法の城などのVRの世界を作る。ここにVRクリエーターが集まり、さまざまな作品を並べて展示即売会を開く。「バーチャルマーケット」としてイベントを開きセブン&アイ・ホールディングスやパナソニックなどがスポンサーになっている。 制作物がVR世界であるため、進捗(しんちょく)確認では各自がVR空間に集まって作品をチェックする。新津佑介ディレクターは「VRの中に入ると存在感や細かなニュアンスも伝わる」と説明する。世界を作るためにデザイナーや技術者、演出家、脚本家など幅広い人材が協力する。副業や業務委託として関わる人が多く、子育てや介護などで働ける時間が限られる人もいる。鬱(うつ)で体調が不安定だったりと背景はさまざまだ。 会議はマイクとスピーカーを介するため、同時に多数が話すと聞き取れなくなる。そのため発言はみな最後まで聞く習慣ができた。一言一言が長くなるため会議の要点は絞って事前に情報を共有しておく。一堂に集まれる時間帯も限られるため、意思決定に曖昧さを残さない。舟越社長は「『後で確認しよう』は通じない。遠隔を前提に働く文化ができた」と振り返る。 トラブル時には助け合う。この協業のルールは遠隔で働くリーダーたちが話し合い、毎週更新される。自分たちで働き方やルールを修正できるため一人ひとりのコミットは増す。経営から現場へのルール作りの権限委譲が功を奏した。 HIKKYは通勤ができない社会的弱者の駆け込み寺になっている訳でない。舟越社長は「みなで助け合うが成果主義。普通の人と競争しているため、パフォーマンスが高くないと生き残れない」と説明する。この働き方はVR制作に限られた話ではない。さわえみかアートディレクターは「VR空間で買い物をしたり、働いたりと経済が回る。普通の暮らしの一部になっていく」と展望する。(取材・小寺貴之)

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