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共働き夫婦をサポートせよ!増える「女性×テクノロジー」サービス

「フェムテック」活用が日本企業の分岐点に
共働き夫婦をサポートせよ!増える「女性×テクノロジー」サービス

婦人科医らが卵子の凍結や使用、妊娠などまで相談に乗り最適なクリニックを紹介(ステルラのStokk)

女性「Female」と技術「テクノロジー」を掛け合わせ、女性のヘルスケアをサポートする「フェムテック」市場が国内でじわりと広がっている。月経や妊娠、育児、女性特有の疾病などのテーマを対象にアプリケーション(応用ソフト)やデバイスを用いたサービス開発が進む。企業の健康経営に対する意識が高まる中、女性のキャリア・育児の両立をサポートするソリューションが脚光を浴びている。

8日は国連の定める「国際女性デー」。持続可能な開発目標(SDGs)の中でも掲げられている「ジェンダーの平等」「女性のエンパワーメントの推進」について関心が集まっている。

米国の調査会社によるとフェムテックの投資市場は2018年頃から急成長し、19年には800億円規模に、25年には5兆円規模に達すると見られている。市場のターゲットは女性全般であることから潜在性が高いとされる。フェミニズムの機運の高まりやデジタルデバイスの普及、大手IT企業を中心とした福利厚生の充実などが市場拡大を後押ししている。

オンライン診療を手がけるネクストイノベーション(大阪市北区)は、生理や避妊など女性特有の悩みに対し、チャットでの問診を通じてピルを郵送するサービス「スマルナ」を展開。近くに婦人科がなかったり、婦人科での診察に抵抗があったりする10―20代の若い女性をターゲットとする。子育て中の薬剤師が薬効や副作用など薬の相談に応じ、医師の問診につなぐ仕組みだ。

手軽にアクセスし、専門家から個人に適したアドバイスを受けられる点などが会員制交流サイト(SNS)などで人気を呼んだ。石井健一社長は「オフラインで接点を持つニーズも取り込みたい」と一段のサービス拡充を検討する。国際女性デーに合わせ、大阪市北区の百貨店の一角で、薬剤師や助産師によるトークイベントを開催。来場者が体の状態に向き合い、働き方や家族・パートナーとの接し方などを考えるきっかけづくりの場とした。

妊娠・キャリアアップの両立

ライフステージの変化に合わせ、女性にとって妊娠とキャリアアップの両立が課題となる。仕事が軌道に乗り出すと結婚や妊娠とのバランスが取りづらく、どちらかを諦めてしまう場合も多い。厚生労働省によると、不妊治療を行った人のうち、退職した人は16%に上る。

「妊娠は自然でなければならないという考え方だけではなく、出産のタイミングについて一つの安心材料を与えたい」と述べるのはステルラ(東京都千代田区)の西史織社長。同社は卵子凍結や不妊治療の悩みに対応するプラットフォーム(基盤)「Stokk」を手がける。妊娠しづらくなる前に、若い卵子を体外に取り出して保存するのが卵子凍結だ。婦人科医や培養士がチャットを通じて凍結から卵子の使用や妊娠などまで幅広く相談に乗り、最適なクリニックを紹介する。

費用面の負担などから卵子凍結を選択できない若い世代に向けて、西社長には「企業の福利厚生の一環として取り入れてもらいたい」という強い思いがある。2月からはスカイマークが試験導入した。同社は女性社員が約5割を占め、満足度向上に向けた方策を充実させる。

男性も啓発

「フェムテックにおいて女性をターゲットとするだけではなく、男性の関わりも促すことで女性にプラスに働いてほしい」と説くのはファミワン(東京都渋谷区)の石川勇介社長だ。自身が不妊に悩んだ当事者として18年6月、妊活をサポートとするコンシェルジュサービス「ファミワン」を立ち上げた。

対話アプリケーション(応用ソフト)「LINE」を通じ、妊活に関する質問に答えると診断結果が得られる。さらに不妊症看護認定看護師や臨床心理士が個別相談に応じ、治療を行う病院選びをサポートする。アルゴリズムに基づいた自動応答と専門家によるアドバイス両輪で個別ユーザーの状態に合わせた知識を提供している。

東京大学医学部付属病院とも共同研究をはじめ、各ユーザーの生活習慣や生活の質を分析、データに基づいた情報提供を進める。妊活開始からクリニックの選択、体外受精、妊活のやめ時まで「終わりの見えないつらさを抱えるユーザーに寄り添う」と石川社長。約5%は男性ユーザーのため、男性・女性ともに啓発し、福利厚生の拡充を図る多業種からの採用を目指す。

フェムテックは欧米のスタートアップが先行し、幅広いソリューションを展開している。国内では企業のSDGs達成に向けた手段の一つとして注目されるほか、21世紀に成人したミレニアル世代はITとの親和性が高く、追い風となっている。国内のスタートアップは、企業向けセミナーなどを通じた正しい知識の啓発や医療の専門家を交えた個別アドバイスの実施など、日本人の感覚に合った細やかなサービス提供で価値を生んでいる。

(大阪・中野恵美子)
ネクストイノベーションが百貨店の一角で開いた薬剤師や助産師によるトークイベント

私はこう見る

デロイトトーマツベンチャーサポート 海外事業部北米事務所マネージャー セントジョン美樹氏

共働き夫婦に向けたソリューションはグローバルな課題とされるが、人口減少が深刻化する日本で女性の体にまつわるケアを充実させる取り組みは、社会的意義が大きい。企業にとっては健康経営の視点からも刺さりやすい。デジタルヘルス全般に当てはまるが、企業の従業員向けに提供する「BツーBツーE」型で福利厚生に生かすのが黄金の方程式と言えるだろう。

米国では健康経営の実現に加え、優秀な人材採用のためのブランディングに生かす傾向が顕著だ。ミレニアル世代の価値観に合った従業員サービスを提供しているかどうかが採用活動を左右している。西海岸では政治的・社会的にリベラルなムーブメントが広がっている。大手IT企業を中心に多様な人材を採用・育成し、女性役員を増やす上でヘルスケアとキャリアアップの充実を重視している。

日本でも各社が優秀な女性エンジニアなど獲得を目指し、米国と似たアプローチを取り始めた。日本では意思決定者の多くが男性であるため、自分ごととして捉えられるかが大きな分岐点となる。(談)

日刊工業新聞2020年3月6日

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