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歯車からアイスクリームブレンダーまで、異彩を放つ岡山のオンリーワン企業

オカネツ工業、常に新たな事業領域に挑む
歯車からアイスクリームブレンダーまで、異彩を放つ岡山のオンリーワン企業

関西電力と共同で製品化した電動運搬車

オカネツ工業の母体は1948年設立の岡山県陸用内燃機関工業協同組合。熱処理を祖業に歯車の加工、トランスミッションの組み立てと事業を拡大してきた。現在では農業用機械で培った技術を応用したアイスクリームブレンダーを開発するなど自社製品でも異彩を放っている。食品分野の廃棄プラスチック削減につながる製品開発プロジェクトも進行中で、和田俊博社長は「この事業が軌道に乗れば真にオンリーワン企業としての姿が見えてくる」と語る。その原動力は、技術基盤を着実に固めつつ、常に新たな事業領域に挑む開発精神にあるようだ。

協同組合の事業部門を分離

同社の母体である同協同組合は35社の発動機メーカーが参画し、熱処理の専用工場を協同で運営するために発足。これまで、それぞれに発注していた発動機のピストンやシリンダーなど部品の熱処理を手がけるためだ。

岡山県は児島湾周辺をはじめ、広大な干拓地が広がり、第二次大戦前から比較的規模の大きな農業経営が営まれてきたことから、発動機を生産する会社が多数立地し、最も多い時期には県内に60社以上の発動機メーカーがあったともいわれる。また、岡山県には倉敷市に新三菱重工業水島製作所(現三菱自動車水島製作所)があり、自動車部品の熱処理も開始。その後、自動車部品の仕事の割合が増え、会員外取引の規制水準を超えたため、協同組合の事業部門を分離する形で、1964年に岡山熱処理工業株式会社(現オカネツ工業株式会社)が設立された。

同社は熱処理にとどまらず、機械加工も始める。機械加工設備を導入し、農業機械用のミッションなどに使われる「傘歯車」の生産を開始した。傘歯車は文字通り傘の形をした歯車で、動力を伝達する部品だ。70年には岡山市内の歯車メーカーを吸収し、「平歯車」の生産も開始、歯車の生産体制を拡充した。熱処理から機械加工へ領域を広げたこの時期に同社の経営基盤は確立したといえる。

歯車から一貫生産に強み

73年には早くも新たな事業領域に挑戦する。農業用機械で使われるトランスミッションの組み立てである。稲を刈り取り、束ねる「バインダー」向けを手始めに次は田植え機のトランスミッションの組み立ても開始した。歯車や軸の生産技術はあるが、ケースの加工や組み立てを手がけるのは初めて。岩田秀一顧問は「納入先の農業機械メーカーから指導を受けながら技術を習得した」と振り返る。当時は人手による作業が大半だった農業の世界が機械化され始めた時期。「その地域で1人が機械を買うと周囲の人もこぞって購入した」(同)。トランスミッションの生産量も年々増えていった。

74年には社名を現在の「オカネツ工業株式会社」に変更。工場が手狭になったことからその後、本社と工場を岡山市北区から岡山市東区の現在の場所に移転。新本社・工場の敷地面積は約3万1000平方メートルと旧工場の5倍に拡大。さらに、組立工場や塗装工場を新たに建設し、現在の本社工場の延べ床面積は約1万平方メートルに拡大。金属熱処理をはじめ、歯車の加工、トランスミッションやフロントアスクルなどを組み立てる一貫生産体制を構築した。

同社のモノづくりの強みは歯車から生産できる点にある。歯車の生産工程は旋盤加工、歯切り、ブローチ加工、熱処理、研磨加工など多数の工程を経て完成する。そのため金属加工機械も多数そろえなければならず、設備投資、技術者の機械操作習得など負担は大きい。だが、歯車から一貫生産していることで「納期への対応など利点が多い」(同)。

熱処理から歯車の生産、トランスミッションの組み立てなど手がける本社工場

大手との共同開発も

近年は自社製品の育成に力を注ぐ。2012年に初の自社ブランド製品となる電動ミニ耕運機を発売、その後、エンジン式の耕運機や電動除雪機、電動運搬車を相次いで製品化した。

大手企業との開発案件も増えている。リアロータリー式耕運機はホンダと、山岳用の小型電動運搬車は、関西電力の協力を得て製品化したものだ。もともとは山間部の鉄塔の保守点検の道具類を運ぶため開発したが、小ぶりで一人でも操作できる特徴を生かし、農林業や製造業向けにも売り込む計画という。

15年に発売したアイスクリームブレンダーは果物など1次産品の新たな活用法を提案し、地域の活性化につなげたいと製品化したものだ。アイスクリームに冷凍の果物や野菜を混ぜてオリジナルのアイスクリームを作る装置で、道の駅など6次産業での採用を見込んで製品化した。19年にデザイン性を高めて発売した新型のアイスクリームブレンダーはグッドデザイン賞を受賞。オリジナルアイスの作り方は動画共有サイト「ユーチューブ」でも公開され、話題を集めている。一連の自社ブランド製品の売上高は着実に伸びており、19年度は4億円規模を見込む。

2020年4月には5カ年の経営計画がスタートする。和田社長は会社の経営基盤強化にまつわる軌跡を富士山に例え、「7合目あたりまでは達成できた。次の5年で8合目以上」と意欲を示す。カギを握るのが、今後製品開発を本格化する食品関連の新製品だ。社会問題化している廃棄プラスチックの削減につながる製品で、全く異分野への参入となる。素材の特許は取得済みで、ホテルや飲食業、運輸などをターゲットと考えている。事業計画の詳細はまだ公表していないが、2年後には具体化する模様だ。岡山発のオンリーワン企業の飛躍が楽しみである。

和田俊博社長

【企業情報】
▽所在地=岡山市東区九蟠1119の1▽社長=和田俊博氏▽創業=11948年(昭23)▽売上高=95億円(2019年3月期)

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