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コロナ脅威、専門家会議メンバーが明かす「検査数の限界」と「日本版CDC」

日本感染症学会の舘田一博理事長インタビュー
コロナ脅威、専門家会議メンバーが明かす「検査数の限界」と「日本版CDC」

専門家会議のメンバーで日本感染症学会の舘田一博理事長(東邦大学教授)

国内で新型コロナウイルスの感染が拡大している。政府の専門家会議は、今後感染がさらに広がるか収束に向かうか「1―2週間が瀬戸際」と見解を示した。これを受けて政府は新型コロナウイルスへの対策基本方針を25日に決定するなど、国が一丸となった対策を進める構えだ。感染者はいまだ増加し続けるが、新たな政府方針や今後の対策について、専門家会議のメンバーで日本感染症学会の舘田一博理事長(東邦大学教授)に聞いた。(聞き手・安川結野)

―政府が示した基本方針のポイントは。

「現在新型コロナウイルスの感染は国内における小さな流行クラスター(集団)が見えてきており、まだ流行の拡大を抑えることが可能な状況と捉えている。こうした中で、さらなる感染拡大を抑え、重症患者を増やさないことを目的に政府が基本方針をまとめた。閉鎖空間において近距離で多くの人と会話をする環境では、せきやくしゃみの症状がなくても感染拡大のリスクがあると新たに示され、国や地方自治体、医療関係者が一丸となった対策の必要性が盛り込まれた」

―新型コロナウイルスについて明らかになっている特徴は。

「新型コロナウイルスは、同じコロナウイルスである重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスや中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスよりも死亡率は低く、インフルエンザウイルスよりもやや高いと想定されている。インフルエンザよりも長引く熱やだるさといった症状が特徴だ。またこれまでの状況を見ていると、新型コロナウイルスの感染性は高いと感じる。これまで言われているように基礎疾患がある人や高齢者では重症化しやすいが、一方で若い患者も重症化しており、油断はできない」

―政府の専門家会議では1―2週間が瀬戸際といわれています。

「瀬戸際でやるべきことは、不特定多数の人が一堂に集まる状況を作らず、集団感染を抑えるということだ。感染性が高く肺炎を起こしやすいウイルスだが、感染者の80%は風邪のような軽症で治っていて、感染しても症状がない人はさらに多いと見込んでいる。無症候の感染者も感染力があるという見方ができるため、テレワークの推進や時差出勤による満員電車の回避など対策が企業に求められている」

―検査が限られる要因と、個人に求められる行動は。

「例えばインフルエンザの場合は15分で検査が可能で治療法があり、検査と治療がセットになっている。一方で新型コロナウイルス感染症には治療薬がない。遺伝子検査はどこでもできる検査ではなく1日に実施できる件数に限りがあるため、重症例を優先した検査体制となっている。今後検査体制が整えば、軽症患者に広げていくことができる。呼吸困難などの症状があれば専門の相談センターへ連絡する必要があるが、熱やだるさのような症状の場合、まずは検査実施よりも安静にすることが大事だ」

―今回の新型コロナウイルス流行への対応の振り返りと、今後改善すべき点は。

「2009年に流行した新型インフルエンザでは、医療機関に人が押し寄せて医療現場が崩壊の危機に直面した。今回はそうした事態にはなっておらず、国も専門家も冷静な対応ができるようになってきている。一方で不足しているのは、早期の診断法確立とマンパワーの確保、そして治療法の開発だ。今後、新規の感染症やさらに病原性が高い感染症が日本に上陸する可能性は否定できない。その時に備えた対応の仕組み作りを進めなければならない」

―具体的にはどのような体制づくりが必要ですか。

「米国は、CDC(アメリカ疾病管理予防センター)のような大規模な組織を作っている。日本でも感染症拡大のような有事に備える組織作りと、そうした組織を平時から活用して維持する仕組みが大事だ。有事への備えは予算や人員の配分が非常に難しいが、平時と切り替える仕組みを考えて作っていくべきだろう。日本感染症学会約1万1000人の会員のほとんどは感染症の専門医だ。学会としてはこうした人の力をいかに有事に活用するかということを検討したい」

【略歴】舘田一博氏(たてだ・かずひろ)85年(昭60)長崎大医学部卒、同年同部第二内科入局。90年東邦大医学部微生物学講座助手、05年微生物・感染症学講座准教授、11年教授、同年東邦大学医療センター大森病院感染管理部部長。17年日本感染症学会理事長。

【解説】平時・有事、柔軟さ重要

国立感染症研究所で分離された新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真(国立感染症研究所提供)

 新型コロナウイルスの感染拡大が脅威となるのは、高齢者や基礎疾患がある人とされる。重症化リスクが高い人が感染すると重症肺炎に発展しやすいため、いかに拡大を防いでいくかが重症例を増加させないポイントになってくる。症状がない人の中に感染力のある感染者がいる可能性が示唆されており、「高齢者施設や病院は特に注意が必要だ」と舘田理事長は指摘する。東邦大学医療センター大森病院では当面の間は患者への不要不急の面会を制限して手指消毒とマスク着用の徹底を求めるなど、感染拡大を防ぐ対応をしている。

新型コロナウイルスの感染拡大が収束しても、新たな感染症が今後いつ日本に上陸して拡大するかは予測がつかない。今回の新型コロナウイルスから新たな教訓を得て、対策に生かす必要がある。医療現場は慢性的な人手不足と言われるが、急激に増加する感染症患者にも対応できる仕組み作りをしなければ感染症の封じ込めは困難だ。感染症が発生した場合、平時から対応を切り替え、無駄なく人員を活用する工夫が必要だ。舘田理事長は「今後どういった仕組みを作るべきか、政府や学会など一丸となって考えていかなければならない」と組織作りの重要性を強調した。

日刊工業新聞2020年2月27日
小川淳
小川淳 Ogawa Atsushi 編集局第一産業部 編集委員/論説委員
新型コロナウイルスの正体は完全には分かっておらず、未知の感染症への恐怖は根源的なものがあるかもしれません。市中では半ばパニック状態になりつつあり、311直後を思い出します。こういう時に一般の人が冷静な判断を下すのは難しいかもしれませんが、情報は「誰が」「いつ」言ったかが特に重要です。真偽不明な情報や声の大きい強い意見に惑わされないようにしたいです。311で我々はそれを学んだはずです。

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