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患者の負担を減らす放射線がん治療。装置各社はニーズを取り込めるか

日立や東芝は海外有力企業と提携し国内市場の開拓へ
患者の負担を減らす放射線がん治療。装置各社はニーズを取り込めるか

東芝メディカルシステムズが国内販売する放射線治療装置「VersaHD」

 がん大国と言われる日本では国民の2人に1人ががんになる。欧米ではがんは減っているが、日本のがん死亡率は依然として増加している。その傾向に歯止めをかける治療法として注目されるのが放射線治療だ。放射線治療は副作用が少なく、患者負担を軽減した低侵襲な治療ができるのが特徴。がん完治に向けて欠かせない治療法であり、放射線治療機器事業を展開する日立製作所東芝が機器の普及に力を入れている。

 放射線治療、欧米は50%超も日本はまだ20%台
 
 日本では年間約100万人ががんになり、がんで37万人が死亡する。これまでのがん治療は手術などの外科療法と、薬物を使った化学療法が中心だった。放射線治療はがん細胞に集中的にX線や粒子線を照射し死滅させる仕組み。がん患者で放射線治療を受ける割合は欧米では50%を超える国も多いが、日本は20%台とまだ低い。
 
 同分野で事業を強化するのが日立と東芝だ。両社はそれぞれ粒子線治療システムを手がけるほか、X線を使った治療装置は海外の有力メーカーと提携し国内市場を開拓する。
 
 日立は粒子線治療分野では細い陽子線を複雑ながんの形状に合わせて照射する技術、呼吸で動く臓器の細胞に高精度に照射する技術などを開発。国内は既に10カ所を超える施設から受注実績があり、北米でも5施設からシステムを受注している。
 
 東芝も正常細胞への影響を抑えるためにピンポイントでがん細胞に重粒子線を照射する技術や超電導磁石を採用した回転ガントリー(照射機構部)を開発し、治療システムの小型化などを進める。国内では放射線医学総合研究所(放医研)や神奈川県立がんセンターから装置を受注し、海外進出も狙っている。

 装置を小型化、大規模医療機関だけではなくクリニックでも導入しやすく
 
 X線照射型の治療システムは、日立と米アキュレイ、東芝とスウェーデンのエレクタがタッグを組んだ。コンピューター断層撮影装置(CT)の国内首位メーカーである東芝グループの東芝メディカルシステムズ(栃木県大田原市)はエレクタ製システムの国内販売契約を結び、医療従事者向けのトレーニング活動やユーザーサポートも実施する。
 
 2013年から本社施設内に放射線治療装置や、CTの実機を設置した研修施設を本格稼働。同施設では医療従事者が放射線治療計画の策定や操作方法を習得できる。国内でエレクタ製システムは既に150台超が稼働し、施設利用者も増えている。14年には専用サポートセンターを都内に新設するなどサービス体制を相次ぎ強化している。
 
 日立はこのほど日立メディコ柏事業場(千葉県柏市)内に放射線治療装置の研修センターを設けた。米アキュレイの「トモセラピーシステム」の実機を設置し、各種研修プログラムを提供する。ユーザー数が着実に増えることから、日立もサービス体制の拡充を急ぐ。
 
 同システムは現在、国内で46台が稼働している。日立や東芝が自社で手がける粒子線治療システムを導入するには大規模な施設が必要で、導入費用も数十億円から100億円規模になる。設置できる医療機関が限られるが、X線を使った治療システムは小型で、費用も5億円前後。大規模医療機関だけではなくクリニックでも導入される。

 日立グループはX線治療装置をラインアップに加えることで、「従来の粒子線治療システムや関連機器と融合し、より高精度な治療を普及させたい」(渡部眞也日立製作所ヘルスケア社社長)と意気込む。

明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
装置が普及しても専門医が不足していたり、医師のマインド、患者との病院側とのコミュニケーションが壁になっていたりする。医療はハード、ソフト両面でいろいろイノベーションの余地がある。

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