“1日1冊回覧”で働き方改革、実施企業が得た成果

MSTコーポレーションの図書コーナーには幅広いジャンルの本が並ぶ

1990年代に社内で図書コーナーを設置し、早くから社員の知識や能力向上を図ってきたMSTコーポレーション(奈良県生駒市、溝口春機社長、0743・78・1184)。ただ「読む人は読むし、読まない人はまったく」(濱田恭広営業企画室室長)と活用の濃淡が課題だった。そこで始めたのが、“1日1冊回覧”。個々の知識や感性を底上げし、付加価値の高い仕事を目指す。(東大阪支局長・坂田弓子) 食堂の一角にある図書コーナーの蔵書は約700冊。ツーリング(工具保持具)メーカーである同社に関係深い切削加工や工具、測定、機械設計、生産管理を中心に、マネジメントや歴史、芸術、デザインなども幅広くそろえている。 2週間以内であれば持ち出しも可能で、各種技能検定前には多くの社員が関連本を活用しているという。一方で、貸出表には特定の氏名が頻出していることから、すべての人が満遍なく活用することの難しさも見て取れる。 濱田室長は「学生時代の勉強と、社会人として仕事ができることとは別だし、社会人になっても勉強すべきだ」と、知識を深め続けることの重要性を強調する。 しかし日々の業務をこなしながら、まとまった読書の時間を確保するのは難しく、本から遠ざかる人も少なくない。このため、営業企画室で約1年前から1日1冊の回覧を開始した。 熟読することを強制せず、本が目に触れることを目的に続けており「流し読みでも、内容の何かがひっかかる」(同)とみる。その記憶の蓄積が、仕事で課題に直面した際の“引き出し”になるのだという。 同社の営業企画室のメンバーは8人で、カタログや広告の仕事がメーン。デザインや芸術関連の本を中心に回覧している。 濱田室長は「仕事は実務として淡々とこなすこともできるし、クリエーティブにすることもできる」とし、取り組み姿勢の差や結果としての仕事の差異を指摘する。日常的に本に触れることは思考力を鍛え感性を磨くことにつながり、仕事を変える。 BツーB(企業間)の商品は顧客にPRするために、技術やスペックを最大限盛り込んだ媒体を製作しがちだ。大西昭久営業企画室主任は「従来は伝える内容のみに気を取られていたが、見る人の目線を意識するようになり、印象の面も考えるようになった」と自身の変化の手応えを語る。個々が変われば、チームや部署の雰囲気にも影響が出る。休日に有志で美術館に赴くこともあるという。 働き方改革は有給休暇取得義務化や残業時間上限規制など、仕事時間をより削減する方向へと進んでいる。ただ時間削減のみが先行すれば、企業の競争力が落ちることは間違いなく、生産性向上が急務となっている。 「個々の社員がスキルを高めるには、別の世界を知ることや、思考力を深めることが必要」(濱田室長)。本をツールとした個人強化の取り組みが、企業の将来の強さにつながる。

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