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「トヨタvsグーグル」自動運転でスマホのサムスンにようになってしまうのか

泉田GFリサーチ代表に聞く「システムの競争に持ち込めばトヨタに勝機はある」
「トヨタvsグーグル」自動運転でスマホのサムスンにようになってしまうのか

「世界で異種格闘技戦を戦えるのはトヨタしかいない」と泉田氏

 ―執筆の動機は。
 「前著『日本の電機産業、何が勝敗を分けるのか』で日本の電機業界の”敗戦記“をまとめた。アナリストとして日本の電機業界の凋落を目の当たりにして、その負けパターンに気づいた。日本の産業のためになるとの思いで執筆した。電機業界もさることながら、自動車業界の読者からも反響があったことがきっかけだ」

 「私自身もラスベガスの国際家電見本市(CES)で自動車がクローズアップされているのを見て、自動車業界でゲームチェンジが起きうると感じていた。自動車の動きは気になっていた」

 ―前著の自動車業界の反響とはどのようなものですか。
 「電機の凋落を見た立場から、日本の自動車をどう見ているのか知りたいという声をもらった。自動車も同じ轍(てつ)を踏まないのかという危機感がある」

 ―具体的に自動車業界はどんな危機にさらされているのでしょうか。
 「日本の自動車産業はカイゼンに代表されるようなモノづくりで高い競争力を持っているが、その強みをそがれる可能性がある。電機産業もそうだった。モノづくりの優位性を失い、ビジネスモデルで海外勢に戦いを挑まれた。その結果が電機の凋落だ。自動車も同じことが起こりうる」

 ―IT業界が自動車の関心を高めています。
 「今回、題名に米グーグルを挙げたが、アップルやテスラモーターズも自動車のビジネスモデルの破壊を仕掛けてくる。財務諸表などの公開情報やインタビューを通して、今の状況と今後のシナリオを分析したのが本著作だ」

 ―自動運転車を切り口に、グーグルの対抗軸としてトヨタ自動車を掲げました。その理由は。
 「自動車は日本産業の屋台骨で、その代表格のトヨタが競争力を弱めれば日本産業が足元から崩れ落ちかねない。自動運転車を巡るビジネスは、世の中の仕組みそのものを大きく変える可能性を秘めており、ハードメーカー、IT、エネルギーなどさまざま産業が関わる『異種格闘技戦』となる。この舞台で世界の主要プレーヤーと競っていけるのは、トヨタしかいない。トヨタが自動運転に関与できないと日本の産業は弱体化する」

 ―自動運転の趨勢(すうせい)にトヨタはどのように対応すべきだと考えていますか。
 「トヨタはやはりITが弱い。グーグルとITで打ち勝つのは難しいのではないか。トヨタが持っていない企業やリソースを取り込んでいくのが一つの選択肢だ。ハードである自動車とソフトである自動運転を一体で運用できるようにする『システムの競争』に持ち込むこめれば勝機はある。トヨタほどの潤沢な資金をもってすれば可能だ」

 ―トヨタ”VS“グーグルという対抗の構図ではなく協業することは考えられませんか。
 「システム競争で覇権を握る企業について行くのも一つの選択肢だ。グーグルの基本ソフト(OS)『アンドロイド』を使って、世界有数のスマートフォンメーカーになった韓国サムスンのような立ち位置だ。これはトヨタのプライドに関わる問題になる。でもトヨタが世界最大の自動車メーカーであり続けることができるだろう」
(聞き手=池田勝敏)

 <プロフィル>
 泉田 良輔(いずみだ・りょうすけ)GFリサーチ代表。2000年慶大商卒、同年日本生命生命入社。02年フィデリティ投信入社。13年から現職。愛媛県出身、39歳。『GoogleVSトヨタ「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA刊)
日刊工業新聞2015年09月21日 books面
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役デジタルメディア事業担当
5年前、まだパナソニックの津賀社長が自動車機器部門の担当役員だったころに、「アンドロイド」を自動車制御のワンプラットフォームのOSにする可能性は?と聞いたことがある。そしたら津賀さんは「たえずソフトを更新するビジネスモデルが、クルマですぐに受け入れられるとは思わない。車載では品質を優先していく」と答えた。さらにソフトの標準化が進むと、ECU(電子制御ユニット)のハードとソフトの供給先が分離する可能性もあるのでは?と聞くと「ソフトの作り方は自動車メーカーごとの自己流があり、そうはならない。非共通部分がなくなると、参入障壁が下がり中国メーカーなどが入ってくる。パナソニックも汗を流してメーカーごとにすり合わせていく」と言っていた。パナにとってトヨタは上得意である一方、最近はテスラともつきあいがある。嗅覚のするどい津賀さんに5年先のことを本音で聞きたくなった。

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