【日本国際賞受賞】5Gを支える技術を開発したMIT名誉教授が教えるアイデアの源泉

ロバート・ギャラガー氏に聞く

2020年の日本国際賞「エレクトロニクス、情報、通信」分野に、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のロバート・ギャラガー名誉教授(88)が選ばれた。ギャラガー氏は、データ通信を行う際、外部からのノイズで生じる誤りを検出し訂正する符号「低密度パリティ検査(LDPC)符号」を提案。第5世代通信(5G)に採用されるなど高速大容量通信を支える技術として期待されている。ギャラガー氏に受賞の経緯を聞いた。 ―研究を始めたきっかけは。 「大学卒業後に米ベル研究所に就職し、それから米軍に所属することになった。大学院に行けば軍から抜けられると思い、1956年からMITの大学院で工学を学ぶことになった。博士課程まで進むつもりはなかったが、MIT入学後、通信理論の研究など素晴らしい研究をする人たちに出会った。私はLDPC符号の研究を始め、60年に成果を博士論文にまとめた。面白いテーマだが成果が実用化されるとは当時思いもよらなかった」 ―研究で困難だったことは何でしょう。 「必要な実験システムの構築が大変だった。MITの当時のコンピューターは非常に初歩的で現在の時計やラジオ程度の演算能力しかなかった。プログラムを走らせ、止まったらもう一度挑戦するという試みを繰り返した。おかげでパソコンが嫌いになってしまったが」 ―アイデアの源泉は何だと思いますか。 「魅力的なアイデアをくれた協力者の存在が大きい。MITでは多くの国から多くの人が集まり頻繁に議論した。研究テーマについて、他の人に質問し、話を聞き、考えることが重要だと思う」 ―成功の秘訣(ひけつ)を教えて下さい。 「ベル研究所では電話交換機の研究をしていたが、ここでの研究が面白いと思っていた。MITに行き、もっと面白いことに出会った。私は幸運にも良い研究テーマに気づき取り組めた。多くの人は研究を始め結果が出ない時に『結果が出る』と信じなければならない。成功のためには運と努力、面白いことをやるべきだという信念が必要だと思う」 ―現在の研究環境へのお考えは。 「研究者人口が増え予算を巡る競争が激しくなった。研究者が研究費確保のために研究ができないのだとすれば悲惨だ。研究費のことばかり考えていると良い研究はできない。大学などの研究機関だけでなく、企業で研究することも一つの選択肢だと思う」 【略歴】53年(昭28)米ペンシルベニア大卒、同年米ベル研究所技術職員。54年米陸軍通信部隊。60年MIT博士号取得。71年米電気電子学会(IEEE)情報理論協会会長、86年MIT情報・意思決定システム研究所共同ディレクター。米国出身。 5Gに導入されているLDPC符号は提案後すぐには実用化されなかったが、30年後以降に花開き高速大容量通信に欠かせない技術となった。「良い質問は良い答えより重要だ」(ギャラガー氏)との指摘は研究テーマ設定の重要性を示唆している。研究者の質問や熟考の成果が我々の生活を豊かにしているのかもしれない。(聞き手・冨井哲雄)

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