80万年以上前の「南極氷」、掘削技術を支える中小企業たち

ドリル先端には円形状の刃が付いており、これを回転させて円柱状の氷柱を採取する

国立極地研究所が2022年にも始める3回目の南極氷床深層掘削に向け、掘削用ドリルの実証試験を行った。前回の掘削(03―07年)後から13年が経過しており、未経験者の訓練の場にも位置付ける。極寒の過酷な環境下での作業となるだけに、ドリルには高い精度や耐久性、機能が求められる。地方に拠点を置く中小企業のモノづくり力がその一端を支えている。(取材=川越支局長・大橋修) 1月末、九州オリンピア工業(宮崎県国富町)の一角に高さ20メートル近い足場を組み、その上から全長12・2メートル、直径12・8センチメートルの細長いドリルをワイヤでぶら下げる。地上には高さ1・2メートルほどの巨大な氷のブロックを設置。これが南極氷床の代わりだ。ドリル先端を氷の真上の位置に合わせ、円形状の刃が氷の表面をかんだ瞬間、刃を回転させると氷を削り始め、ドリル本体がゆっくりと氷の中に潜り込んでいく。 試験を指揮した極地研の本山秀明教授は、「ドリルの性能を再確認できたし、改良した刃も問題ないことが分かった。今日のメンバーから現地に行く人も出てくるので、ドリルの大きさや重さ、掘削の仕方を実感できたのも大きい」と成果を強調する。試験場所には極地研のほか、大学や高等専門学校、研究機関、メーカーなどから30人以上が集結。前回掘削時はまだ中高生だったという若手も混じる。 ドリルや刃の製造は前回に続き九州オリンピア工業が担った。前回の製造から17年以上も空き、当時関わった社員の多くが引退。昔の図面を引っ張り出し、OBに手伝ってもらうなど苦労を重ねて再現した。「当社は燃焼機器の製造が主力。溶接や切削、組み立てなど鉄鋼品の製造は得意」(和仁静雄取締役)と述べるように、熱や腐食に強い部材のモノづくり力が今回も生きた。「掘削に成功し、結果が出れば、社員のモチベーション向上にもつながる」(同)として、次のドリル2号機製造の入札参加にも意欲を見せる。 ドリル外側のアルミニウム管を製造したのが日本伸管(埼玉県新座市)の白河工場(福島県西郷村)。内側に収納する回転ドリルとぶつからないよう、長さ5メートルで曲がり精度0・3ミリメートル以内という精度を実現した。 さらに、掘り進む際に出る氷の削りかす(チップ)を上方に送り出すため、管の内側に厚さわずか0・5ミリメートルの凹凸を6カ所入れてある。「アルミの押し出し加工で凹凸をつけるのは非常に困難。少しでもズレるとチップが詰まったり、内側のドリルと干渉したりしてしまう」(北沢武夫技術開発部・安全環境部・管理部部長)と解説する。素材も「押し出し、引き抜き両方ができるアルミで最高硬度の特殊材を使った」(同)と胸を張る。 極地研では21年度中にも南極大陸に掘削基地を建設し、準備作業を始める予定。順調なら22年度中に深層掘削を始め、24年度には氷床を2000メートル以上掘り進め、岩盤まで到達させる計画。氷床奥深くには太古の氷が眠っており、前回の72万年前を超え、世界記録となる80万年以上前の氷の採取を目指す。

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