国立大と研発法人、産学連携の子会社設立が可能に

政府は国立大学や国立研究開発法人(研発法人)が、共同研究など産学連携を手がける子会社を設立する新制度を2021年度に始める。教員のクロスアポイントメント(複数組織との雇用契約)や博士課程学生の雇用により、子会社は産学連携の人材に報酬で報いる。大学は、株式の配当や寄付による自由度の高い収入増が期待できる。主力モデルは研究型大学の学内組織「オープンイノベーション機構」(OI機構)の外部切り出しだ。現在開かれている20年通常国会に関連法の改正案を提出、会期中に成立させる計画だ。 国立大や研発法人はベンチャーへの投資や技術移転を目的とする会社は設立できる。直近では理化学研究所が全額出資した理研鼎業(埼玉県和光市)が19年9月に発足した。 ところが国立大、研発法人ともに共同研究のための会社は設立できない。大学などは基礎・学術研究を中心とするため、産学連携に熱心な研究者が報われる仕組みが乏しい。そのため大型の産学共同研究は、大学の“出島”で行えるよう、内閣府を中心に19年春から議論がなされてきた。 産学連携子会社は専門性の高い社員が学内シーズを把握し、製造業など既存企業に営業活動を展開し、大型の共同研究契約を結ぶ。教員や博士学生を雇用し、共同研究に取り組んでもらう。学内の最先端設備を使った試作品開発や、研究設備・専門支援人材の活用といった業務も可能だ。 対象のプロジェクトは複数でも特定の大型案件でもよい。出資は単独のほか、複数の大学・研発法人・企業とも、共同研究相手の企業とでも可能だ。出資金は、大学の寄付金や運用益など自主財源から手当てする。文部科学省事業で研究型大学に見られるOI機構を、事業終了後に子会社化するのは有力な選択肢となりそうだ。 新制度は今国会での法改正や政令により、21年度施行の見込み。科学技術基本法の「科学技術・イノベーション基本法」(仮称)への改正と合わせ、イノベーション推進の重要な手だてと位置付ける。 産学共同研究で大型の企業資金を引き出すために、大学内に企業出身者の集団を据えた「オープンイノベーション機構」(OI機構)が動きだした。慶応義塾大学は強みの医学系に、金融業界出身の統括クリエイティブマネージャー(CM)を組み合わす。山形大学は有機材料に特化して設備も人もそろえてきた実績を核に、研究型大学とは異なる意識で取り組む。産学連携によるイノベーション創出に、外部人材活用や教員評価などを絡ませた大学改革としても注目される。(取材=編集委員・山本佳世子) 日本の産学共同研究は一般に基礎研究が対象で、企業から得る共同研究費は1件200万円程度が多かった。企業にとっての“非競争領域”で、業界共通の産学共同体(コンソーシアム)も盛んだ。 これに対してOI機構が掲げるのは、1企業の戦略事業に当たる“競争領域”での規模の大きい応用開発だ。ここ数年のイノベーション創出に向けた官民連携で、日本の産学連携の問題点が解消されれば、大企業が1件数千万―数億円の資金を大学に投入する流れが生まれている。 しかし日本の大学は、世界中の企業を引き付ける米国一流大学などと比べ、組織的な集中支援、スピーディーな対応、ニーズ志向、研究成果創出の約束などが欠けている。課題解決に向けて、文部科学省は2018年度新規の「OI機構の整備事業」を始めた。キーとなる統括CMをはじめ、各プロジェクト担当や知的財産、財務などの各CMを産業界出身者で固めて対応する。文科省科学技術・学術政策局の西條(にしじょう)正明産学連携・地域支援課長は「コストセンターだった産学連携を、OI機構によってプロフィットセンターに変える」と力説する。 もっとも大型案件は、非競争領域での活動から生まれてくることが少なくない。そのためOI機構と二人三脚ながら、全学の案件を扱う産学連携本部向けに、文科省事業「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」(OPERA)を連動させる。OI機構の事業採択8件のうち半分がOPERAとの連動だ。多企業や1企業と連携の形を使いわける“オープン&クローズ戦略”が、大学にも求められる時代となっている。 医学部と産業界の人脈という、他大学がうらやむ強みを生かして動きだしたのは慶応義塾大学だ。同大のOI機構「イノベーション推進本部」の杉山直人統括CMは銀行出身で、旧産業革新機構の専務も務めた。他大学の統括CMは技術系出身の事業経験者が多い中で、異色の存在だ。 杉山統括CMは「多様な業種を相手にしてきた経験から、連携企業の中期計画に基づく事業戦略に対し、『大学のシーズで手伝えますよ』と提案ができる」と強みを説明する。慶応義塾の青山藤詞郎常任理事も「新事業に資金投入する上での目利きのプロだ」と期待を寄せる。 同大医学部は異業種企業からも大型投資を獲得するパワーがある。先行例が化学会社JSRとの連携だ。同社の寄付による「JSR・慶応義塾大学医学化学イノベーションセンター」(JKiC=ジェイキック)で、再生医療や腸内細菌など多様な共同研究が動いている。事業化を見据えて他企業を巻き込みたい案件も出てきた。特許などきっちり管理しながらのオープン&クローズ戦略を進めるのに、OI機構の出番となる。同大のOI機構は研究プロジェクトだけでなく、ベンチャー起業や特許ライセンスでの事業化にも目を配る。適切な形態に絞り込むため、杉山統括CMは市場ニーズ調査や、特許譲渡の対価試算など投資効果を評価するフローチャートを用意した。 OI機構の支援テーマは理工学部を中心とするスマート社会も対象だ。同学部では外部資金で家賃を払う追加スペースの活用が進んでおり、この仕組みを拡大する。さらに定年延長など人事面も工夫し、産業界を引き付ける教員の活躍を後押しする。 分野特化の拠点構築に10年をかけ、OI機構につなげた地方大学の星は山形大学だ。当初の強みは有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)くらいだった。しかし今は有機エレクトロニクス材料―プロセス―デバイス―製品―システムと、川上から川下までカバーする“有機材料システム”に広げている。 学内資金の集中投下に始まり、いくつもの国の補助事業の採択、これを活用した施設や設備、同分野の研究者150人体制と進めてきた。プロセス評価やデバイス試作の設備を有する同大は、これらを持たない大手材料メーカーを引き付ける。 この結果、年間の産学共同研究費は約9億円、うち9割を同分野で稼ぐ。2億円程度が多い他の地方国立大に差をつけ、ランキングで同大は研究大学グループのすぐ後に付ける。 同大のOI機構「オープンイノベーション推進本部」で強化を図るテーマはインクジェットプリンター、3Dプリンター、印刷エレクトロニクスなど。統括CMには、22社を相手に年7000万円の資金を獲得する酒井真理同大インクジェット開発センター長が就いた。セイコーエプソン、東京大学での大型研究プロジェクトや国内外企業との事業開発で経験が豊富だ。 さらに事業CMも、コニカミノルタやパイオニアの出身者でそろえた。 同大の高橋辰宏有機エレクトロニクスイノベーションセンター長は「博士研究員を雇用して取り組む競争領域は、基礎研究重視の研究大学ではない本学にぴったりだ」と力説する。論文重視の研究大学では難しい、教員評価における特許出願や事業化実績の活用も手がけている。人事給与マネジメントに関わる部分だ。大学の個性を生かした産学連携、そして大学改革に期待が集まりそうだ。

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