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工作機械から3Dプリンターまで、ニッポンのモノづくり企業が注目する松浦機械製作所の「変化力」

工作機械から3Dプリンターまで、ニッポンのモノづくり企業が注目する松浦機械製作所の「変化力」

松浦機械製作所の本社工場。大型製品の組み立て作業が進む

5軸制御のマシニングセンター(MC)を主力製品とする工作機械メーカーである松浦機械製作所。本社・工場を置く福井県で高精度の製品を作り、その7割以上は米国や欧州、さらにはアジアなど世界各国で販売している。主要顧客である中堅・中小規模の金属加工会社は、熾烈な企業競争を勝ち抜くため、競争力の源泉となる工作機械を求めている。こうした期待や多様なニーズに応えるべく同社の切磋琢磨も続く。

貿易摩擦で潮目変わる

工作機械業界は2018年夏以降、米国と中国の貿易摩擦を背景に事業環境の潮目が変わり、国内外で需要の冷え込みに直面している。比較的堅調な受注を保ってきた同社の経営にも、世界経済の先行き懸念は影を落としており、19年秋以降、受注環境に陰りがみられるという。半導体など一部の産業分野向けは、20年中に受注回復するとの見込みもあることから松浦勝俊社長は、「年後半にかけて需要が回復した時に、いかに取り込めるかが勝負になる」と気を引き締める。

その一方で、厳しい事業環境を逆手に、設備の稼働率に余裕がみられるタイミングだからこそ、人材の育成や生産性の向上に注力。さらなる成長を見据え、足下を見つめ直し実力に磨きをかける2020年がスタートした。

同社が主力製品とするマシニングセンター(MC)は工具を自動で交換する機能を備えており、削りや穴開けといった多種多様な加工作業を1台で連続的にこなすことができる。さまざまな種類がある工作機械の中でも、幅広いサイズの材料加工に使われ、顧客の生産現場では主力を担うことが多い。

松浦機械製作所は1970年代にコンパクトな機種でMC分野に参入。工具を装着する主軸の回転速度の高速化、複雑な形状の加工ができる5軸制御の採用、さらに近年は長時間無人運転・変種変量生産に対応可能な多面パレットチェンジャー(PC)機能を目玉に顧客のニーズをつかんでいる。

「日中はオペレーターがついて高付加価値の仕事、夜間は自動で付加価値の低い仕事をこなす使い方など、当社の営業は労働力不足の時代を勝ち抜くビジネスモデルを提案するのが特徴で、それらが評価を得ている」。松浦社長はこう自負する。

松浦勝俊社長(本社ショールームにて)

MCを連続的に24時間、あるいは土・日曜日の48時間を自動運転させることで、停止時間をなくしフル活用できる。製品価格は数千万円するが、その分、投資に見合うパフォーマンスが得られるとの評価を得ている。こうした製品の競争力は、機械が安定して長く使えるための高品質なモノづくりやオペレーターにとっての高い操作性を考えた設計力などに裏打ちされている。

MCとともに同社製品で注目されるのが、金属3Dプリンターと切削で表面仕上げする機能を1台に集約した「LUMEX(ルーメックス)」。ものづくりの現場では昨今、トポロジーと呼ばれる設計手法で従来にない形状の部品づくりを目指す機運が高まっており、それに応える装置として有望視されている。

部門横断型の開発スタイル

次代を見据えた取り組みも進めている。その一つが、新型機の開発における設計、生産技術、製造技術の3部門の連携強化である。3Dの設計図面を活用して情報を共有。狙った原価に合わせて加工・組み立てのコストを実現するのが狙いだ。予測と実績の乖離をいかに縮小するかはこれまでも重要課題ではあったものの、技術開発を重視する同社だけに、実際に製造してみると、予定原価をオーバーすることは決して少なくなかったという。新たに動き始めた3部門の連携強化を通じてこうした課題を克服するとともに、設計の段階から生産技術、製造技術の知見が加わることで、低コストで性能よく作り込むことが可能になるとともに、納期の短縮といった成果も見込んでいる。19年は横断連携型の開発スタイルの習熟をより重視し、久方ぶりに新機種の投入を見送ったほど、同社の今後を占う大きなチャレンジである。

同社の主要機種は、入門向けの「MX」シリーズ、上級向けの「MAM72」シリーズの2種類だが、20年は満を持して、新たな開発スタイルでの製品を投入予定で、今後の新機開発のベースとして、部門横断型の開発スタイルを定着させる方針だ。

働きやすさを重視して2019年に刷新した本社オフィス

地域のために 新たな役割

変わる事業環境への対応、また国内外の顧客訪問などで多忙を極める松浦社長に、19年秋、新たな仕事が舞い込んだ。本社を置く福井市の福井商工会議所の主要6委員会の一つ、情報イノベーション委員会の委員長への就任である。「ずいぶん固持したんだけど。忙しいのは理由になりませんよと説得されてしまった」と苦笑する。最終的には地域貢献になればと引き受けることを決めた。

福井県では23年春に北陸新幹線が敦賀市まで延伸する予定で、地域活性化の千載一遇のチャンスと目されている。19年は16年ぶりとなる新たな知事も誕生。福井商工会議所の会頭はじめ経済界トップの顔ぶれも一新した。松浦社長は現在、50歳代半ば。これからの福井経済を牽引するニューリーダーの一人である。

これからのビジネスにとって「情報イノベーション」は業種や企業規模を問わず各社が直面する共通課題だが、、その分、議論を進める上で焦点を絞りづらい難しさがある。また小売業をはじめ多様な業種で構成する福井商工会議所の中で、工作機械メーカーは少数派。新たな役割に戸惑いつつも、「会員全体に寄与するという難しい宿題に副委員長らと知恵を出し合い、今後3年で新たな提案を打ち出したい」と意欲を示す。

工作機械は技術の成熟度が進み、業界の競争環境も厳しい。半面で松浦機械製作所の製造・販売の体質強化も進んだ。「業績好調の年は、期末の12月に製造や納品が集中し、目の回る忙しさが通常だった。19年は余力を残した状態で過去最高の業績を更新できた。目標とする売上高200億円も射程に入るだけの実力が身についた」(松浦社長)と手応えを感じている。自社のビジネスと地域経済全体を見据えた新たな挑戦-。双方で大きな飛躍が期待できる企業である。

【企業情報】
 ▽所在地=福井県福井市東森田4の201▽代表者=松浦勝俊社長▽創業=1935年▽=売上高179億円(2018年12月期)
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