日本社会を変えるトリガーになる…東大総長とダイキン会長が大絶賛した組織連携の全貌
人的交流は総計約850人、共同研究は講座型で17も始まり、海外インターンシップ(就業体験)は競争率5倍と大人気―。東京大学とダイキン工業は組織型大型連携で1年での成果を発表した。「この組み合わせは硬直した日本社会を変えるトリガーになる」(五神真東大総長)、「当社の研究開発部隊に地殻変動が生まれている。想定していた年10億円を、2年目は15億円規模にする」(井上礼之ダイキン工業会長)と両トップは絶賛する。(取材=編集委員・山本佳世子)
【20人が駐在】
「Look東大」の名称でダイキン社員は約350人が東大を訪れ、約70人の教員と技術の議論を展開した。「これだけ来ると教員のマインドセットも変わる」(五神総長)。テーマ探索のため約20人が同大に駐在。大型の共同研究で、無着霜熱交換器や人工知能(AI)による先端材料開発など17の社会連携講座が決まった。
井上会長は「研究室にこもっていた社員がおしゃべりになり、また東大に行きたいという。世界最先端の研究者と接して世界観が変わり、殻を打ち破る姿勢が生まれてきた」と感嘆する。次は「Lookダイキン」、教員約100人が国内外の同社拠点を訪問する。
【世界を見る】
同大関連ベンチャーではリストの310社から、同社が120社を訪問した上で20社を大阪の本社に招いた。コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)からの第1号、タンザニアでの電力供給システムのベンチャーなど複数の出資が決まった。「CVC設立は若手社員から希望が上がってのもの。過去になかったことだ。東大に刺激を受けたためだ」と井上会長は顔をほころばす。
ダイキンの海外拠点でのグローバルインターンシップには学生約50人が参加。うち10人は3週間で4カ国を回る世界1周型でビジネス提案をした。「1企業を通して世界を見ることができた」と喜びの声が上がる。
こういった効果を引き出せた大きな理由は、タイプの異なる2者の連携だったことだ。東大は日立製作所やNECとも組織連携するが、“似たもの同士”で刺激が少ないのとは対照的だ。
そもそも東大が、空調ビジネスに特化するダイキン工業に声を掛けたのは、世界150カ国の同社ネットワークに魅力を感じたためだ。途上国をはじめ学生の海外派遣は教育効果が高いが、各大学にとってコストと安全性確保は大問題だ。同大は同社拠点の活用でクリアを狙った。
【ポスト確保】
研究者ポスト確保でも手だてになることを明らかにした。「10年という連携協定の期間は極めて重要だ。特定の研究者を雇用し育成し、新たな学術分野を開拓して社会実装につなげられる」と五神総長は説明する。若手を中心に4人×17講座、計70人弱が“東大―ダイキン生まれ”のイノベーターとして期待されそうだ。