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世界のメガファーマはM&A意欲衰えず、日系はどうする?

世界のメガファーマ(巨大製薬企業)は野心的なM&A(合併・買収)を続けそうだ。製薬業界では成長分野のがん領域を中心に覇権争いが激化しており、有望な開発品を抱える企業は格好の買収の対象だ。2019年も業界の構図を変える大型再編はあったが、メガファーマの意欲は依然衰えていない。

「とにかく、がん領域の事業をどれだけ拡大できるか。今後の成長はこれにかかっている」。ある製薬企業幹部は、今の業界をこう表現する。世界の製薬企業が新薬開発を続ける中で、十分な治療薬がない疾患領域はおのずと狭まる。一方、がんは完全な治療が確立されていない上に市場は大きく、開発途上の薬剤も多い。収益拡大を狙う多くの製薬企業がこれに商機を見いだしており、買収競争は激化の一途をたどる。

【米国が激戦区】

19年は業界の構図を塗り替える再編劇があった。米ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)が米セルジーンの買収に踏み切った。買収額は業界最大規模の約740億ドル(約8兆円)。BMSの狙いは多発性骨髄腫治療薬などを展開するセルジーンのがん事業。BMSもがん免疫治療薬「オプジーボ」を抱えるなどがん領域が強く、相乗効果の発揮をもくろむ。

さらに、がん領域を強化する動きは相次ぎ、米イーライ・リリーが2月、米ロキソ・オンコロジーを80億ドル(約8600億円)で買収。出遅れていた米ファイザーも6月、米アレイ・バイオファーマを114億ドル(約1兆2000億円)で買収すると発表した。

米医療コンサルティング大手のIQVIAによると、18年の世界のがん治療薬市場は1500億ドル(約16兆4000億円)。今後は年間9―12%伸びると見ており、23年までに市場は2400億ドル(約26兆円)に達する見込みだ。中でも世界最大の医薬品市場の米国は先進国で唯一、2ケタ台の成長率を予想。規制緩和を進める中国とともに覇権争いの中心地になっている。

がん領域はスイスのロシュが独走し、セルジーンを得たBMSやスイスのノバルティス、米ジョンソン・エンド・ジョンソン、ファイザーが追走する。これら上位勢の動きは落ち着くと見る向きがあるが、他にも強化を急ぐ製薬企業は多い。特に大幅な伸びが期待できるがん免疫治療薬の分野では大手が活発な探索を続けており、有望なパイプラインや創薬技術を抱える中堅製薬やベンチャーに触手を伸ばす可能性は十分にある。中堅や中小同士の統合を指摘する声も多く、慌ただしさは拭えなさそうだ。

【日系の道は】

日本市場は一定の再編が済んだが、日系の大手や中堅もがん領域の拡大に躍起だ。しかし、武田薬品工業が有利子負債を増やしながらもアイルランドのシャイアーを6兆円超で手中に収めたような戦略に他社が出る可能性は低い。ある製薬関係者は「巨額買収は新薬がいくつも出れば投資に見合うが、財務リスクが大きすぎる」と指摘する。日系製薬は、自社のパイプラインと補完関係を築ける一定規模の欧米企業やベンチャーを中心に探索を続けると見られる。(取材・小野里裕一)

日刊工業新聞2020年1月14日

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