人気の老舗旅館「俵屋」に見る“月並み”の本質

佐藤年著『俵屋相伝』(世界文化社刊)。日本人が古くから大切にしてきた月並みの行事をはじめ、俵屋のものづくりへのこだわりを知ることができる

新年あけましておめでとうございます。 皆さんは毎年お正月をどのように過ごされるだろうか。日本の方にそう問いかけると、「月並みですが、家族で神社にお参りに行き、お節料理とお雑煮を食べます」という類の答えが返ってくることが多い。 この「月並み」という言葉には、「平凡」の他に毎月の恒例行事や歳時という意味がある。私はこの歳時や慣習を行う「月並み」こそが日本文化であり、私たちの生活の中に受け継がれるべき大切なものだと思う。その意味では、お正月を迎えるということ自体が、年の初めに行う大切な月並みの行事というわけだ。 日本文化の月並みについて、とてもよく記された良書がある。創業300年の京都の老舗旅館「俵屋」の女当主である佐藤年氏の著書『俵屋相伝』だ。俵屋旅館は18室というミニマムな部屋数でありながら、日本最高の宿と言われ、国内外にファンが多い。この本は、月ごとの章立てで、俵屋の美意識(実は日本の美意識を佐藤氏のデザインの力で形にして現代に伝えているのだが)を余すところなく伝えている。写真も多くアート本のように美しい。日本語、英語の2カ国語表記なので、海外の方へのプレゼントにもお薦めだ。 本書の中で佐藤氏は語る。「歳時を行うに際しては我々のくらしの中の文化の伝承を形式にのみ捉われるのではなく、大本の意味を十分に理解しつつも、今に生かす方法で行うことがよりよく伝わると思い自己流の解釈をも含めている」と。この考えによって生まれたデザインが、訪れる人を魅了してやまない。 建築、空間デザイン、作庭、食、ホスピタリティの全てで最高のクオリティーを顧客に供し続ける俵屋では「衣食住」のいずれも、少しでも体によいことを心掛け、改善を重ねている。花王と共同開発したオリジナルせっけん、丸八真綿と挑んだ1万個の繭で作る敷布団や希少な原料を用いた羽毛掛け布団など、最高のクオリティーを実現するためのものづくりの秘話も本書につづられている。 老舗旅館が実現した伝統と革新のクロスオーバーデザインを、美しい日本の四季折々の設えと共に、この本で味わってほしい。(西谷直子・三井デザインテック・コミュニケーション・エディター)

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