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MaaSもCASEも大チャンス、総合商社が「クルマを攻める」

MaaSもCASEも大チャンス、総合商社が「クルマを攻める」

ライプチヒ駅構内にも設置(クレバーシャトル)

自動車業界の新しい潮流であるMaaS(乗り物のサービス化)やCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)が台頭し、総合商社のビジネスも変化してきた。三井物産ではカーシェアリング事業の推進や2019年秋にはドイツのオンデマンドによる相乗りタクシー会社への出資を決めた。各社も特徴ある企業への出資や共同実験などを着実に進めており、いかにサービスの魅力を伝えることができるかもポイントになる。

三井物産/渋滞・環境対策に着目 シンガポールでカーシェア

東京23区内ほどの広さの島国シンガポールは交通渋滞の防止へ自動車の総量規制を実施。自動車の所有者に入札による新車購入権(COE)の取得を義務付け、国内の車両台数を調整している。こうした環境下で自動車を所有するのではなく、利用する手段としてカーシェアリングが普及している。

10年、三井物産はシンガポールのカーシェアリング大手・カークラブに出資し、16年に完全子会社化した。現在、約230台の車両でサービスを展開。自動車メーカー10社、23モデルのラインアップをそろえる。

会員数は約1万人で、1カ月当たり約8500回利用されている。利用者の約90%は個人で、男性の利用が約80%を占める。

シンガポールに着目した理由について、三井物産モビリティ第一本部自動車第一部第三事業室のボチャラリ暁門室長補佐は「人口密度が高く、今後は高齢化対応など都市問題も抱えている。政府も新しい技術やサービスを積極的に取り入れている」と話す。

19年春にはカークラブのほか、国内高速バス大手で、移動マーケティング事業を手がけるウィラー(大阪市北区)のシンガポール子会社・ウィラーズ、シンガポール政府系テック企業であるシンガポールテクノロジーズエンジニアリングと共同で、自動運転の商用化に向けたコンソーシアムを結成した。

19年10月には、シンガポールの国立公園ガーデンズ・バイ・ザ・ベイで自動運転技術を用いた運行サービスの商用運行を開始している。「カーシェアリングだけではなく、モビリティーサービスの挑戦の場としたい」とカークラブの龍瀬智哉ディレクターは意欲を示す。カークラブで新たなITシステムの導入を図っていくほか、需給状況に応じて料金が変わるダイナミックプライシング制度を取り入れることができないかなど、新ビジネスの創出に向けた挑戦が続いている。

カーシェアリングのユーザーはウェブサイトや携帯アプリからカークラブの車両が停められている駐車場を探して利用できる

ドイツで乗り合い輸送 使い勝手の良さアピール

三井物産は19年10月、ドイツでオンデマンドによる乗り合い輸送事業「クレバーシャトル」を展開するGHTモビリティ(GHT)の株式11・64%を取得した。GHTの筆頭株主はドイツ鉄道で、GHTの株式を約76%保有している。

なぜ、鉄道会社自らが乗り合い輸送のようなMaaSを推進するのか。三井物産の堀大輔モビリティ第一本部交通プロジェクト部貨物輸送事業室長は、ドイツ政府が環境保全を政策として進めていることに加えて「ゼロエミッション(排出ゼロ)による2次交通を発展させたい意向があるためではないか」と見る。

クレバーシャトルは環境負荷の低い電気自動車(EV)や燃料電池車を使用。ベルリンやミュンヘンなど、ドイツ国内5都市でサービスを展開している。足元では毎月約21万人の利用者がいる。相乗りで先に利用客が乗っていた場合であっても、最も効率的なルートを算出し、運行する。

モビリティ第一本部交通プロジェクト部成長フロンティア事業室の北地弘明氏は「場所にもよるが、ベルリン市内であれば最短3分程度で配車が可能」と説明する。

特徴的な人工知能(AI)やアルゴリズムによって効率的なルートで運行できるなど、使い勝手の良さもアピールしながら普及を狙う。

各社、新事業創出に意欲 実運用へサービス実証進む

19年10月から東京本社勤務の社員を対象に、勤務時間内の移動時にオンデマンド型乗合サービスを導入したのは伊藤忠商事だ。

複数人の乗客を最適なルートでさまざまな目的地まで送り届けるオンデマンド型乗合サービスに特化したノウハウを持つ米ビアトランスポーテーション(ニューヨーク州)の技術を活用した。ビアモビリティジャパンの川島篤ジェネラルマネージャーは「独自技術で複数の乗客を最適なルートで目的地まで運ぶことができる」とその特徴を話す。

豊田通商は19年11月、中・長距離バスアプリサービス「シャトル」を手がけるインドのスタートアップ企業スーパーハイウェイラボに出資した。

モバイルアプリでバスのルートやピックアップ場所などを選択し座席を事前予約できるもので、15年の事業開始以降、成長を続けているという。現在はインドの6都市でサービスを展開。1日当たり2000台以上のバス運行、10万回の乗車回数を実現している。

カーシェアリングなど、自動車を“利用”するニーズの高まりに合わせ、駐車場に着目するケースもある。

住友商事は19年春、米国投資ファンドKKRから傘下の駐車場大手Qパークの一部、北欧3カ国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド)での事業を買収し、社名をアイモ・パークに変更した。

住商の岩波剛太理事・自動車流通事業本部長は「(駐車場を)ヒト・モノの移動の発着点となる“モビリティーハブ”へと進化させ、総合的に社会に貢献したい」と語る。

一方、自動運転をめぐっては、丸紅とZMP(東京都文京区)の合弁会社AIROが19年12月、中部国際空港制限区域内で、自動走行バスによる乗客の輸送を想定した実証実験を行った。

伊藤忠商事は効率的に輸送できるシステムとして普及を狙う

画像認識などのAI技術を用いた航空機検知機能による誘導路横断の自動判断システムや、バスを遠隔で操作する機能などを調べた。

システムオペレーターを車内に置かず、遠隔管理室からドア開閉などのオペレーションを行うなど、実運用に近い技術、サービス検証を実施した。

(取材・浅海宏規)
日刊工業新聞2020年1月3日

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