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見つかり始めた“水のある天体"、地球の進化を考えるヒントに

見つかり始めた“水のある天体"、地球の進化を考えるヒントに

下半分がエウロパの断面図、右が木星のイメージ。エウロパの液体の水の上に氷の層があり、一部の水が氷の裂け目から表面に噴出している(NASA提供)

近年、宇宙では水を持つ天体が次々に見つかっている。小惑星「リュウグウ」や火星などの太陽系の天体から、かつて液体の水があった証拠が見つかっている。過去の水の存在は地球外での生命の可能性を示すだけでなく、地球の進化を考えるヒントを与えてくれる。さらに月や火星には地下に氷があるとされ、この水資源を飲み水や宇宙探査のための燃料に使う構想もある。宇宙にとって水とはどのような存在なのか。

リュウグウを探査した宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ2」の撮影画像から、リュウグウに水があったとする証拠を見つけたとJAXAはやぶさ2プロジェクトチームが3月に発表。「水酸基」とよばれる水の構成分子を含む鉱物を見つけた。同チームの吉川真ミッションマネージャは「リュウグウで採取した試料の酸素と水素の同位体を調べることで、水の起源が分かるかも知れない」と期待する。

我々はなぜ宇宙の水の存在が気になるのだろうか。それは地球外の生命体の存在を期待するからだ。太陽系天体の生命の可能性を研究する東京工業大学の関根康人教授は「10―20年前の研究のキーワードは『水を探せ』だった。今は見つかった水の中に何があるかを調べることが探査の中心になっている」と強調する。

生命の存在を考える上で注目されるのが、「ハビタブルゾーン(生命居住可能領域)」だ。太陽系の場合、太陽からの距離がほどよい距離にあり、液体の水が存在できる場所として地球と火星が該当する。実際に米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「キュリオシティ」の採取試料から、かつての火星に液体の水があった証拠が見つかっている。

さらに金沢大学や東工大の研究グループは10月、40億年ほど前の火星に存在した水の中の成分を推測し、地球の海水の3分の1程度の塩分濃度を持った水があったと発表した。火星の水は、塩分やミネラルなどを豊富に含み、生命の誕生や生存に適した水であることを明らかにしている。火星から水が消えた詳細は不明だが、過去に存在した火星の水を調べれば、現在の地球の進化を考える知見となるかも知れない。

天体に存在する氷 探査計画の重要な資源

宇宙には水を持つ天体が多くある。確認されている天体の中で、液体の水を持つとされるのは地球、木星衛星「エウロパ」、土星衛星「エンセラダス」、冥王星などだ。エンセラダスでは表面が氷に覆われているが、ナトリウムイオンと炭酸イオンが存在し、地下に液体の水があるため生命が存在するかもしれない。

またエウロパは表面が10キロメートルほどの厚い氷に覆われ、内部には液体の水があることが知られている。関根東工大教授らは、液体の水が氷の亀裂から噴水のように噴き出し、氷の表面に付着することに着目。米ハワイ州の「すばる望遠鏡」での観測で、付着した塩の組成を調べたところ、地球の海のようにエウロパの水は塩化ナトリウムを主成分として含むことが分かった。

NASAは2023―25年に探査機「エウロパ・クリッパー」を打ち上げ、エウロパ内部の構造を調べる。さらに欧州宇宙機関(ESA)が22年に探査機の打ち上げを目指す木星氷衛星探査計画「ジュース」では内部に水を持つと考えられている三つの木星衛星のエウロパと「ガニメデ」「カリスト」を調べる。この計画には日本も参加する予定で、遠い宇宙で水を探す競争が始まっている。

また固体の水である氷が存在する場合もある。月には60億トンともいわれる氷がある。火星の極域には氷があり、地下に永久凍土があるとされる。水は飲料としてだけでなく、電気分解で水素と酸素に分け、探査車(ローバー)や別の天体を目指すロケットなどの燃料に使える。米国は24年にも宇宙飛行士の月面着陸を目指す「アルテミス計画」を進めており、日本も計画に参加している。月は火星探査に向けた中継地点となるため、月の水は重要な資源となる。

月探査ビジネスを手がける宇宙ベンチャーのアイスペース(東京都港区)は多数のローバーを月面で展開し氷を探す計画を進めている。21年に月面着陸、23年にローバーを利用した月面探査を実施する。月面開発に向けた動きが加速している。

火星探査車キュリオシティ(NASA提供)

【インタビュー】東京工業大学教授・関根康人氏

―火星には液体の水が存在していたそうですね。
「45億年前―35億年前の火星には液体の水があった。地球のような大きな海ではなく、湖のようにまばらに存在していたと考えられている」

―地球は水が豊かですが、現在の火星は凍り乾燥した惑星となっています。原因は何でしょう。
「火山活動の減少が原因と考えられる。地球も火星も常に宇宙に大気を放出するなどして大気の成分を失っている。地球では火山活動で地球内部から噴き出した二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスが地球の表面を覆い、表面を暖めることで液体の水が存在できている。一方、火星では火山活動が止まり大気中に新しいガスを補給できなくなった。地球の大気圧の数百分の1の気圧となり、液体の水を保てなかったと考えられる」

―他の天体に生命がいる可能性についてどう考えていますか。
「地球以外にエンセラダスと過去の火星に生命の存在する可能性がある。だが宇宙の生物が地球の生命の構成成分であるデオキシリボ核酸(DNA)やたんぱく質を持っているとは限らず、同じような役割を持つ分子の可能性は無限にある。火星の水の化学組成から有機物とエネルギーの謎に迫りたい」

【キーワード】ハビタブルゾーンとは?

地球のように生命が存在できる領域を指す。恒星の周辺で、大気があり天体表面に液体の水が存在できることが条件。生命の生存条件として「液体の水」「有機物」「エネルギー」の三つが挙げられる。太陽が地球にエネルギーを供給することで、地球には光合成する植物や細菌が生まれ、それを食べる動物といった生態系が存在する。液体の水は多くの分子を溶かし、濃縮できる機能を持つ。溶けた水の中で分子は化学反応を起こし、生命を構成する有機物などの分子を作り出す。3条件がうまく絡み合ってはじめて生命を作る素地ができる。

(取材・冨井哲雄)
日刊工業新聞2019年12月30日

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