学校の先生を育てる学芸大がファウンダー・孫泰蔵さんと組む狙い

連載・未来の学びの形~Mistletoe Japan×東京学芸大学(下)

東京学芸大副学長・松田恵示氏

Mistletoe Japan(ミスルトウジャパン、金沢市)の孫泰蔵ファウンダーと東京学芸大学が立ち上げたエクスプレイグラウンドでは「遊び」と「学び」、「社会変革」をシームレスにつなぐ。教育と起業家アクセラレーターが組んで、従来の起業支援にも、公教育にもない、新しい何かをつくっている。仕掛人のミスルトウの孫泰蔵ファウンダーと東京学芸大の松田恵示副学長に聞く。最後は松田副学長。(聞き手・小寺貴之) ―学芸大は学校の先生を育てる大学です。スタートアップや金もうけとはだいぶ離れた文化を持っています。公教育と起業が離れていることにも賛否がありますが、アクセラレーターのミスルトウと組んだきっかけは。 「教育分野は産学連携が遅れている。お金もうけに関わるのは良くないという雰囲気も、実際に関わるべきでない部分もある。公教育は等しく教育を行うことが重要で、学校の内部の教育を改革する力は弱い。そのため教育界の外から人材や技術、資金を導入して改革を進めていく必要があった。外部連携でイノベーションを起こしたいと考えていたところでミスルトウジャパンの孫泰蔵さんに出会った。孫さんも教育から変えていく必要があると考えていて意気投合した。ミスルトウジャパンと学芸大の二者で進めるプロジェクトも走っているが、エクスプレイグラウンドでは我々で場や環境を整え、いろんな人が活動できるオープンイノベーションを進めようとしている」 ―企業は学校に、教育用のタブレットやパソコンなどのICT機器の市場、知育玩具や教材の効果評価のサポート役を期待してきたと思います。改めて民間が教育と組む魅力は。  「その考えは古い。社会が大きく変化する中で、新しい市場が教育にあると考えた企業が参画してきている。例えば企業のオフィスは変わってきていて、決まった席、決まった建物に毎日通勤する働き方が減っている。遠隔勤務やフリーアドレスだけでなく、3カ月単位で地方の拠点を巡りながら、その土地土地の生活を楽しみつつ、地域の課題から新事業を考える働き方がある。働く本人とその家族の学びがどうあると良いか、学びから働き方を整えようと模索されている。知識を教えること、スキルを身につけることだけが教育ではない。学びを支えることが教育だ。コミュニティーは学びを通して構築される。従来の教育産業の枠組みは捨ててほしい」 ―エクスプレイグラウンドでは遊びと学びをつなぎます。自分で面白いと思うことを試しながら周りを巻き込んでいきます。志は高くも、遊んでるだけだといわれませんか。  「遊んでるだけと問題になるのは、その楽しい、面白い、が個人に閉じる場合だ。例えばトランプで新しい遊びを考えたとしよう。一人で満足すると、そこで終わりだが、友人とやってみても面白い、なら地域でやってみよう、街興しのイベントにしようと広がっていく。個人に閉じない面白さは人と人をつなぎ、コミュニティーの芽をつくる。これはある種の社会的資産だ」 「同時に教育界ではAgency(自ら考え、主体的に行動して、責任をもって社会変革を実現していく姿勢・意欲)が日本の課題になっている。個人が社会の課題に向き合うとき、その活動が課せられた仕事になってしまっている。一方、スタートップは生き生きと活動していて、サービスが社会に受け入れられるに従い。社会を変えていく。社会をよりよくすることを主体的に楽しみながらやっている。エクスプレイグラウンドではアクセラレーターの力を借りてAgencyを伸ばす教育につなげたい」 ―個人と個人を結ぶシェアリングビジネスではコミュニティーが重要です。製造業もサービスにシフトしていて、社外の技術者やユーザーのコミュニティーをいかに活性化するか模索しています。組織を惹きつけるのは利益ですが、個人を惹きつけるのは学びや面白さになります。ソーシャルビジネスや、利益のでない初期段階のビジネスでは学びが重要になり、コミュニティー活動の中に学びの要素をちりばめる必要がありました。活動を学びに落とし込むノウハウは。 「教育界は学びを促す技法を蓄えてきた。日記や振り返りノートはその一つで、活動を振り返る中で新しい発見や変化に触れる。そのとき自分は頑張れたか、振り返ると明日の自分を変える。出会いで自分が変わったと気が付くことが学びの原形になる。またこの学びを支えるためには視点の移動が必要になる。学校の教室は多様な子どもが集まる。家庭に困難を抱えている子どもや外国出身の子ども、とその家族。先生は多様な視点に立って向き合っていく。学校と同様、商品開発やコミュニティー形成も多様な視点に立って考える。この視点の移動はマニュアル化が難しい。体験が重要で、エクスプレイグラウンドはさまざまな人と場を共にする」 ―アクセラレーターから学んだ点は。  「国立大学の組織文化が変わってきている。ミスルトウとの会議では役職や肩書で互いを呼ばない。全員あだ名が付けられ、私は副学長ではなく、『まっちゃん』だ。『ふじむー』や『エリザベス』たちと会議している。役職や肩書で自分の役割を制限せず、発言や参加を促す。これは日本の大学では唯一だろう。会議の資料はクラウドで共有して、会議では報告はなく、質問や議論から始まる。司会も毎回変わる。また国立大学はまず年度予算があって、その1年間で実施していく。民間はまず先にやりたいことがあり、その都度予算や空間を用意する。プロジェクトの立ち上げや建物の建設など、大学の制度の融通の利かない部分を『なぜこんなこともできないのか』と何度も突きつけられてきた。大学の参加者も初めは『制度だから』と説明してきた。会議ではみな凍り付いたように沈黙が続くこともあったが、回数を重ねることで解けてきた。孫さんにはまだ怒られているが、投資家として長い目でみている。さすがだと思う」 ―具体的なプロジェクトは。  「VR(仮想現実)の教育利用など約25のプロジェクトが走っている。参加者は150人弱。大企業や中小企業の人から声をかけて頂く。とがったプロジェクトになっていて人が集まってくる」 「我々は公教育をアップデートしたい。公教育は現在の社会のニーズに応えてきた。だが社会をこう変えていくというプッシュ型の学びを作りたい。遊びと学びをシームレスにつなげて、社会の中で新しい価値を作る。その教育のあり方は無学年制だったり、オープンアドレスな学校かもしれない。大学がクロスアポイントメント制度で、民間や学校の外の人材に週に何日か来てもらっているように、小学校などでも多様な人材を迎えられると多様な視点が教育現場に入ってくる。また地域の人たちも、学校のいまを知ることになる。学校の形も変えていきたい」 (上)  (中)  (下)

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