ニッポンの都市鉄道を見てくれ!JRも私鉄もメトロも、五輪へ“爆速”整備中

JR東のE235系(左)と東京メトロの2000系(イメージ)

東京五輪・パラリンピックの開催を控え、観客らの輸送を担う都市鉄道で受け入れ準備が着々と進んでいる。JR東日本と東京メトロは、大会期間中の安定輸送や訪日外国人客(インバウンド)の移動環境整備に向けてハード面の充実を図ってきた。残る期間で情報通信技術(ICT)などを活用して、公共交通の使いやすさ向上に取り組む。ハード・ソフト両面を磨き上げた鉄道インフラは東京大会のレガシー(遺産)となる。(取材・小林広幸) 東京五輪は公共交通事業者にとっても大舞台だ。JR東日本の深沢祐二社長は「大会期間中の2カ月間は、各支社から社員が(首都圏の駅に)応援にやってくる。これをレガシーにする」と、経験を通じた人材の育成にも期待を寄せる。東京メトロの山村明義社長は「大きなチャンス。大会の成功に貢献できれば、東京の交通機関として自信につながる」と意気込みを示す。 春以降、都心では新駅が相次いで開業する計画だ。JR東は3月14日に山手線・京浜東北線「高輪ゲートウェイ駅」を、メトロは6月6日に日比谷線「虎ノ門ヒルズ駅」を、それぞれ供用開始する。 五輪前の暫定開業となる高輪ゲートウェイ駅では、開業後約半年間の期間限定で、駅前の再開発予定地をイベント「高輪ゲートウェイフェスト」会場として活用。五輪の機運を盛り上げるイベントを開催するほか、地方の魅力や鉄道の未来を紹介するパビリオンも設置する。大会期間中は東京都と大会組織委員会が主催のパブリックビューイング「東京2020ライブサイト」会場にもなる予定だ。 虎ノ門ヒルズ駅も五輪前に暫定開業する。虎ノ門地区のホテル・オフィス複合再開発ビルと直結。都心から臨海部の五輪会場への主要輸送ルートとして、駅に併設するバスターミナルからバス高速輸送システム(BRT)が発着する見通しだ。 都心の駅で変化が目立つのは駅構内の案内や列車案内表示だ。日英以外の多言語表示や視認性の高い液晶ディスプレーへの取り換えが進む。東京メトロ・銀座線は2018年から発車予定時刻に変えて、列車の到着まで「あと何分」表示を採用した。次の列車が来るまでの間隔が短い都市鉄道ならではの案内。海外では一般的とされるが、国内は前例が乏しかった。JR東の山手線でも、五輪開会前までに全駅で「あと何分」表示に転換する計画だ。 JR東は多言語の案内板とともに、リアルタイムの運行状況を確認できるインフォメーションパネルの設置を進める方針だ。メトロは、多言語による自動旅客案内装置や改札口ディスプレーの全路線設置を完了させる。 大会組織委員会は17年3月に「アクセシビリティ・ガイドライン」を策定した。会場へのアクセスルート上にある駅にはエレベーターやトイレといった設備、改札の幅、手すりや階段の仕様に至るまで細かく要求基準が明示された。大会に備えて改良に取り組んだ駅は、同ガイドラインに従っている。 JR東は五輪・パラリンピックで混雑が想定される7駅でホームやコンコースの拡幅、バリアフリー設備の拡充を進めてきた。新国立競技場最寄りとなる千駄ケ谷、信濃町、原宿の3駅で計250億円、競技会場アクセス駅・乗換駅となる有楽町、新木場、新橋、浜松町の4駅で計250億円を投入した。 東京メトロも新国立競技場周辺の外苑前、青山一丁目、北参道各駅で複数のバリアフリールートを確保、競技会場アクセス駅・乗換駅で多機能トイレの整備などに取り組んだ。都心を貫く銀座線では全線を対象とした駅リニューアル工事を実施し、渋谷駅では年末の切り替え工事を経て、3日始発から新駅舎が供用開始する。 五輪は首都圏の鉄道会社にとってホームドア整備を加速させるきっかけになった。東急電鉄は春までに鉄道線全駅で導入を終える。渡辺功東急電鉄社長は「転落事故ゼロを目指し、安全で強靱(きょうじん)な鉄道を作る」と話す。開会までにメトロは138駅で整備を完了し、カバー率は77%。JR東は古くからの盛土構造のホームが多く、設置費用や工期に難点はあったが、首都圏51駅で稼働する見通しだ。 ホームドアや複数のエレベータールート確保など、五輪関連の駅で先行させたバリアフリー化だが、他の駅にも普及加速させていくには大きな壁がある。ある民鉄大手の幹部は「設置に係る費用を、自社ですべて吸収することは難しい」と苦しい台所事情を打ち明ける。日本では公共交通を担うのが民間事業者である以上、直接の利益を生まない投資について余力を超えて無理は強いられない。 国・自治体が各3分の1を補助する制度や融資制度、課税特例措置などがあるものの、地方自治体の財政状況は厳しい。整備を急ぐのであれば事業者の負担が増す。国土交通省ではかつて、利用者にも一定の受益負担を求める新たな料金制度の導入などについて、検討が行われたが、一向に現実化していない。 バリアフリー設備は設置した後も、維持・更新費用がかさむ。各事業者は人手不足による労務費上昇や、利用者が求めるサービスの充実にも対応しなければならず、自助努力には限界がある。企業の社会的責任だ、として押しつけると、遅々として進まなくなる可能性すらある。交通バリアフリーを加速し、持続可能とするには、利用者負担の仕組み、運賃転嫁や加算制度の検討は避けて通れない。 東京はJR東やメトロをはじめ、数多くの民間事業者が公共交通を担っている。利便性を高めるには、事業者間で一層の情報連携が欠かせない。遅延などのリアルタイム運行情報を共有し、継ぎ目のない(シームレスな)移動の実現は、スマートフォンをはじめとする携帯情報端末の活用がカギを握る。 ただ各社はそれぞれで利用者に情報を提供しており、運行情報一つとっても、データのオープン化や連携環境が整っているとは言い難い。こうした状況の打破を目指し、首都圏交通事業者の静的・動的データを1カ所に集め、アプリケーション(応用ソフト)開発者らに提供し、使い勝手の良いサービスを開発してもらうコンテスト「東京公共交通オープンデータチャレンジ」が開催されている。 五輪開催中もコンテスト期間中とすることで、データが提供される枠組みを作った。コンテストに参加するアプリやウェブサービスが、東京を訪問するさまざまな人のニーズに寄り添い、移動を快適にする一助となる。 公共交通事業者にとって大会関連の輸送はもちろんだが、期間中も東京の経済活動を維持、両立させることが不可欠。深沢JR東社長は「五輪期間中の輸送ダイヤ、体制を詰めているところだ」と話す。開会まであと半年あまり。山村メトロ社長は「大会に向けて、もう少し工夫や連携が必要だ」と指摘。公共交通の準備も“総仕上げ”に入る。 多数の客を安全かつ快適に輸送する役割。五輪では日本の都市鉄道も世界から真価が問われることになる。

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