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「天使のはね」を生み出す職人の進化と「愛情」ある新工場

「天使のはね」ブランドのランドセルを展開するセイバン(兵庫県たつの市、泉貴章社長、0791・72・3000)。広まちや肩ベルト、かぶせなどの部品加工と、部品をランドセルに組み立てる作業を行う室津工場(たつの市)では、約2年前から本格的に社員の多能工化を進めてきた。室津工場主任の井上和也さんに多能工化のこれまでの成果と、2020年に稼働予定の新工場への期待を聞いた。(姫路・村上授)

―社員の多能工化を進めた理由は。
「主力のミシン作業者が休むと代わりの人が入れず、生産数が落ちていた。そこで社員が受け持つ工程の前後3工程をできるよう取り組んだ。自分の作業が遅れたら他の誰かが応援に来てくれて、逆のこともできる。今は全体の9割の人ができている」

―当初、社員から反発はなかったですか。
「反発はあったが『あなたができれば全体的に生産性が上がる』と説得して回った。ミシン作業は個人の手の器用さに左右される。難しい人には各自に合う作業をお願いしている」

―試みの成果は。
「多能工化を進める以前は、組み立てを32人で担い、単能工が多かった。現在は組み立て作業を25人でできている。浮いた7人は外注していた部品加工に回すことで外注費削減につながった。今の生産に合わせた体制のため多少数は減ったが前より生産効率は上がった」

―たつの市に新工場が20年7月に稼働予定です。室津工場を含む県内3工場を1カ所に集約します。新工場でのモノづくりの計画は。
「室津は3階で部品加工し、1階でランドセルを組み立てている。新工場は同じフロアで生地裁断から組み立てまで一つの流れでできる。部品や社員の行き来が容易なため生産効率は上がるだろう」

―集約で楽しみなことは何ですか。
「他の2工場で行う作業が分かることだ。例えば室津に来る前の部品を作る姫路工場(姫路市)で、生地にミシンをどんな風にかけているか分からなかった。新工場では同じフロアなので見に行ける。前工程の加工が難しいと分かれば『自分の作業もしっかりしよう』という意識が生まれ、より愛情あるモノづくりをしてくれる」

【ポイント/愛情のものづくり不変】
19年に第1子が産まれた井上さん。父となり「よいランドセルを作りたい思いが、ますます沸いた」という。少子高齢化が進む日本において、わが子や孫への一生に一度のプレゼントは、今まで以上に特別な価値を持つ。室津工場では多くの社員が手作業で製作にあたっていた。いくら多能工化で生産効率を改善し新工場に移ったとしても、製品への愛がある限り、セイバンのランドセルへの思い「愛情のものづくり」は変わらない。

日刊工業新聞2019年12月26日

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