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試作を二つ返事で引き受けた中小のOEMメーカー

象と蟻(あり)がタッグを組む―。政府は新たな成長軌道を描くため、大企業と中堅・中小企業との連携強化を模索している。しかし「言うは易く行うは難し」の言葉通り、「大」と「小」の直接的な協調は難しい。「大高小低」という旧来の関係を打破すべく、超大手企業がOEM(相手先ブランド生産)メーカーと手を結び、同じ目線で製品開発に挑み始めた。「夢」と「安全」を求めるそれぞれの企業の壮大な挑戦に迫る。

2017年9月21日、JR京浜東北線の浦和駅は眠らなかった。終電から始発までのわずか数時間、プラットホームは昼とは別の熱気に包まれていた。見学に訪れた、瀧口製作所(東京都大田区)社長の古田茂樹の視線の先には、ホームドアの設置に忙しい作業員の姿がある。「自分たちの製品もこうやって多くの駅に設置されるのかも」と考えると興奮を隠せない。

古田は社内の反対も押し切り、JR東日本が計画するホームドアの試作を二つ返事で引き受けていた。OEMメーカーとして多くの業界と接点を持つが、鉄道分野は未経験。試作品の依頼のため、実用化のめども全く立っていなかった。だが、無謀にも思えた「夢のドア」の量産はすぐそこまできていた。

駅のホームの安全に欠かせないホームドア。JR東日本は設置駅数を18年度末の36駅から、32年度頃までに243駅に増やす方針だ。だが普及を加速するには障壁があった。工期の短期化だ。

JR山手線の場合、ホームドアは一つの開閉ユニットで約400キログラム。1両にドアが4つなので、11両で44ユニット。内回り、外回りで計88ユニットの重さがホームにのしかかる。風への強度も保つ必要があり、老朽化した駅の場合、ホームに負荷がかかり、設置には大規模な補強工事が避けられない。

強度を保ちながら、軽くする。その難題の答えを探る動きは、JR東のグループ会社・JR東日本メカトロニクス(JREM)にあった。「重々しい扉でなく、バー(棒)1本でいいのではないか」。JR東から出向していた村木克行は12年にホームドア部門に配属され、そう思った。シンプルな形にして設置しやすくし、多くの駅で事故防止につなげることが大事ではないか。生粋のエンジニアの村木は構想案を思い浮かべたが、ホームドアの開発に関わるとは夢にも思わなかった。

JR東はホームドアの設計から生産までを外部の企業に委託していた。JREMではホームドアの据え付けや検査、品質管理が中心だ。一から設計することは、組織の論理では考えにくい。軽量化で工期を圧縮できる「夢のドア」の開発プロジェクトを村木がけん引するとは想像できないのももっともだ。ましてや、この時、名前すら知らないOEMメーカーと共同開発に挑むとは―。(敬称略)


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日刊工業新聞2019年12月17日

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