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五輪イヤー、開催都市「トウキョウ」の成長戦略は万全か

五輪イヤー、開催都市「トウキョウ」の成長戦略は万全か

日本橋に設置された五輪マークに街ゆく人が足を止め記念写真を撮る姿が多く見られた(東京・日本橋)

今夏、いよいよ東京五輪・パラリンピック大会が開幕する。都内各所では大会期間中に訪れる観光客が快適に過ごせるよう「おもてなしの心」で迎える活動と準備も着々と進み、大会本番を今か今かと待ち望む熱気も高まってきた。開催都市・東京は、2度目の五輪・パラリンピック大会をどのように成功へと導き、大会後は成熟都市としてさらなる成長をいかにして遂げるのか。東京の成長戦略を追った。(取材・大塚久美)

【訪れる人々心地よく】

東京五輪・パラリンピック大会の経済効果は莫大(ばくだい)だ。都の発表では、東京に招致が決まった2013年から大会10年後の30年までの18年間で、全国で約32兆3000億円と試算している。時差出勤や働き方改革、バリアフリー対策などの効果も大会後の大きなレガシー(遺産)として、我々の生活を良い方向へと変えていくと考えられている。
昨年11月、海の森水上競技場(東京都江東区)で行われた在京大使館・都内学校対抗「フレンドリー・ボッチャ・トーナメント」(東京都提供)
東京が五輪大会以降も経済成長を続けるためには、いかにヒト・モノ・カネを東京へ呼び込み、心地よく過ごしてもらうかがカギになる。東京を訪れる人々にとってのユーティリティーの充実が何よりも重要になる。 みずほ総合研究所の試算によると、20年の訪日外国人観光客数は3600万人になると予測。大会期間中、押し寄せる多くの観光客をどう安全に誘導するのか。人間と同じ空間で、共に活動するサービスロボットが本格始動することになる。 世界との玄関口となる羽田空港や成田空港では、翻訳や道案内サービスを行うコミュニケーションロボットが外国からの旅行者を案内誘導する準備が進められている。また、東京都立産業技術研究センターが15年度からの5年間で実施し、共同開発研究で生まれた24種類のロボットたちが東京都関連のイベントで稼働する予定も進められている。

【eスポーツ、新たな商機】

五輪・パラリンピックつながりで夢のある話題の一つとして、五輪の競技種目になり得るのか注目される『eスポーツ』。19年10月に茨城国体で初の「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019IBARAKI大会」が開かれ、東京都の成績は205点で第10位となるなど盛り上がりをみせている。
茨城県で開かれた国体で、初開催となった2019年全国都道府県対抗eスポーツ選手権本大会(日本eスポーツ連合提供)
eスポーツはコンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として行う総称だ。総務省が18年3月に発表した「eスポーツ産業に関する調査研究」によると、17年の海外市場規模は700億円、競技を見る視聴者数は3億3500万人。国内市場規模は5億円未満で、視聴者数は158万人と試算されている。今後、スポンサー・広告収入やチケット収入、大会賞金なども増えると見込まれる成長市場だ。ここへ参入し、新たな商機を得ようとする中小企業も続々と現れている。 東京eスポーツフェスタ実行委員会(東京都、日本eスポーツ連合、コンピューターエンターテイメント協会、日本オンラインゲーム協会、東京ビッグサイト)は1月11、12の両日、東京ビッグサイト(東京都江東区)南1ホールで「東京eスポーツフェスタ」を初開催する。入場無料で、仮想現実(VR)ゲームの体験デモのほか、ゲームアプリ開発や周辺機器・アイテム、VRなどの関連技術といった事業内容を持つ事業者らを中心に32事業者が出展する。期間中、ステージの模様は動画で生配信する予定だ。

【「5G」核に新産業創出】

五輪・パラリンピック大会後、果たして日本の景気はどうなるのか―。景気は後退すると危ぶむ見方もあるが、そうならないための布石として東京都では第5世代通信「5G」の整備を推進する「東京データハイウェー基本戦略」を策定済みだ。インターネットの新技術5Gを早期に社会実装することで便利で心地よい都市空間をつくり出し、新たな産業を生み出し、国際都市間競争に打ち勝つことを視野に入れた意欲的な構想。通信スピードが従来の100倍以上でつながると、これまで不可能だったことが可能になる時代がやってくる。
昨年8月、小池知事は東京都を世界的な5G都市にする基本構想「東京データハイウェー」を公表。右は中心となって政策立案した宮坂学副知事(東京都提供)
まずは都庁がある西新宿や首都大学東京の南大沢キャンパス(4月に東京都立大学に改称)を重点エリアに、さまざまな先端技術をもつスタートアップや若手起業家を呼び込み、大企業も巻き込みながら教育、医療、自動運転、防災の実証実験を行い、産業を発展させていく。さらに、東京都自体もエリア限定で5Gを提供するローカル5G事業者として乗り出す。さまざまな行政サービスや創業支援などを打ち出すことで今まで以上に「東京の稼ぐ力」を後押しする。 そのための人材確保も急ぐ。現在、都のIT部門の職員数は全職員の0・3%と、パリ市の1%やニューヨーク市の1・2%、シンガポールの7%と比べると見劣りする。そこで、小池百合子知事は21年度入庁の採用から「ICT(情報通信技術)」職種を新設する。採用人数や試験内容は3月以降に公表するが採用は50人規模になるとみられる。デジタル技術で社会課題を解決する専門家集団を増やし、IT人材面でも国際都市間競争に伍(ご)していく構えだ。

【インタビュー/小池百合子知事「変化はチャンス」】

―五輪イヤーの今年、東京のどんなところを世界に見てもらいたいですか。
「東京は伝統と革新が共存する魅力あふれる都市。伝統を大切に最先端の技術やアニメ、ポップカルチャーなど魅力が豊富にあり、それらを発信していく良いチャンスにしたい。同時に、アピールしたいのは東京の自然だ。ラムサール条約湿地に都では初めて登録された都立葛西海浜公園や島しょ、多摩にもインバウンドの方に来ていただくよう多言語で発信していく」

―具体的には。
「外国人旅行者向けにエンターテインメント情報を発信するポータルサイトを開設した。英語と日本語による多言語対応で、いつどこで、どんな演劇や歌舞伎があり、また体験ができるのかを載せており、切符の予約・決済機能もある。東京に興味のある方に必要な情報をすぐ届けられるようにする」

―5Gを実現した先にある未来とは。
「MaaS(乗り物のサービス化)、自動運転など、いろんな種類が出てきている。交通インフラでは、信号機などが今以上に緻密に連携することで交通の流れがよりスムーズになると期待される。外出困難な高齢者でも買い物ができ、モノが届き、医師の診療が受けられるなど、これまでなかったサービスが当たり前になる。電波の道『東京データハイウェー構想』で都民の生活をより便利に、安心できるまちにしていく」

―長期戦略ビジョンを策定されました。
「経済、テクノロジー、気候変動、人口構造と四つの柱のどれもが歴史的な転換点を迎えている。変化はチャンスで、乗り遅れたら大変な危機をもたらすこともある」

「特に人口問題は、日本全体にとっても大きな課題だ。合計特殊出生率2・07の目標を掲げたのは、人口問題は社会全体の基盤となるもので、少子化に正面から向き合って、みんなで子育てを応援していくことが一番の基本になるからだ。人生100年時代の長寿では学び直しも大きな柱の一つに入れた。そして環境に取り組む『ゼロエミッション東京』も打ち出した。持続可能な成長と成熟、この二つがあいまった東京を目指していきたい」

日刊工業新聞2020年1月1日

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