2020年のトレンドデザインは“端材”?伝統×テクノロジーも注目

自分アップデート #2 デザインの力

 デザイン思考、デザイン経営など、デザインの持つ力がビジネスの場面で広く発揮されるようになってきた。幅広い企業に向けてデザインやカラーのコンサルティングやアドバイスを行うDICカラーデザインの周昕氏に2020年のトレンド、デザインとモノづくりの新たな関係について伺った。(取材・昆梓紗) ―企業のデザイン部門へのコンサルティングや企画提案を行っています。  家電、自動車、化粧品、アパレルなどに色やデザインの提案を行ってきました。例えば2017年には伊勢丹のプライベートブランドが発売しているカシミアストールをデザインしました。今まではヨーロッパを思わせるオーソドックスなチェック柄だったのですが、着物の配色をヒントにしたり、いままで少なかった無彩色系を採用したりと、アジア人に合うような柄や色合いを提案し好評でした。 ―トレンドのデザインが決まる背景とは。  「トレンドデザイン」と一口に言っても、複合的な理由があります。その背景を紐解いていくと、必ず社会情勢が影響しているものです。近年のトレンドを見ていると3つの要因が関係しています。 ① 技術発展…AIやロボットの発達などで生活環境が大きく変わりつつある ② 社会的価値観…環境保護やサステナビリティの考え方が広まり、エコ素材、リサイクルや地産地消などが意識されている ③ 国や地域、文化それぞれの情勢  これらをトータル的に把握することで、今最も求められるデザインは何だろうというのを考えるのがクリエイターの仕事です。  例えば自動車のデザインであれば、自動運転なで自動車の価値が変化することで内装のデザインも今と違うものが求められてきます。家電も例えばテレビを額縁のように家具の一部として家に溶け込むデザインにしたり、自分の見たい景色を表示してそこにいるような体験を提供したりと変化しています。 ―流行の「色」もそういった社会背景が密接に関わっているのですね。  2019年には「青」が流行色の1つとして挙げられましたが、藍染めからきている色です。藍は自然をイメージさせます。  人間は影響しあうものなので、社会背景に関連づいた同じようなデザインを無意識的に選択し、同じ雰囲気を味わっている、という性質があると思います。そして社会背景が影響したデザインや色を生活に取り入れると、何となくしっくりくるのです。流行っているものは意識せず何となく買ってしまいがちですが、その背景やストーリーを理解して選ぶと面白いと思います。 ―近年の流行の変遷を教えてください。  少し前までは大理石の一枚板が綺麗なものとして重宝されていましたが、最近では大理石の欠片を組み合わせて花瓶やテーブルを作るというような動きが出てきています。端材を美しく加工し利用することが世界的にトレンドになりつつあり、加工技術の進化がそれを支えています。当社では航空宇宙分野向けに製造されているハニカム構造部品の端材をアクリルに封じ込め、アクセサリーとして販売するプロジェクトに参加しました。 ―今までファッションやインテリアなどのデザイン向けに商品を作っていなかったメーカーへも動きが広がってきているのですね。  ファッションもインテリアも結局“素材”が重要です。デザイナーはそれをどう料理するかというだけで、新たなデザインのアイデアは素材にかかっているといっても過言ではありません。素材メーカーや中間材メーカーはその意識を持つだけでも変わってきます。  当社が毎年発行している『アジアカラートレンドブック』(※)では、端材の発泡スチロールに着色しモザイクのように寄せ集めてカラフルな素材を作るといった例や、中間材だった緩衝材の触感や色を変えることで新たな市場を切り開いた例を紹介しており、いずれも好評です。新たな設備投資も少なく済むと思いますので、ぜひ挑戦してみてほしいです。 ―端材や中間材にデザイン性を加えるようなプロジェクトをやりたくても、なかなか一歩を踏み出せない企業も多いかと思います。  いままでのプロジェクトを見ていると、まずは破天荒な技術者が取り組みはじめることが多いですね。すぐには成果が出なくても支援する経営者のスタンスがなければ続けられません。そして成果物を発表し、外部のデザイナーや企業などと交流する場を持つことが重要です。1社で完結することは難しいので、パートナーを見つけることでよりアイデアが広がっていきます。   ―日本はモノづくりの層が厚いので、パートナーも見つけやすいかもしれませんね。  サプライチェーンのいたるところに素晴らしい職人がいて、いざプロジェクトが動きだすと高いレベルの成果物ができあがることが日本の強みだと思います。日本人は火がつきにくいのですが、一度スタートすると世界が真似できない製品を作り出すことができます。 ―アジアならではのデザインや得意な素材などはありますか。  アジアの国々は昔から自然素材の取り入れ方が上手く、手仕事の伝統が残っていて仕上げが繊細です。特に日本人は素材感や微妙なトーンに敏感です。例えば「わびさび」のような曖昧さや過剰にならない加減などは、ヨーロッパのデザイナーではうまく表現できない部分ですね。ヨーロッパでしっくりくるデザインや配色でも、アジアにそのまま持ってくるとオーバーになることもあります。  また先ほどお話した端材を使うようなデザインも、本質はサステナビリティといった部分で共通ですが、最終的なアウトプットが違います。ハニカム構造のアクセサリーも、技術や価格の調整などいくつものハードルがあり、情熱を持って取り組まなければアウトプットには至らなかったと思います。 ―日本ならではの敏感さは、製品の品質向上にもつながっていますが、サステナビリティやエコといったトレンドに対しては障壁になりえます。  エコに関する商品をやりたくても、高い品質を担保しなければならない難しさで手を出しにくいと感じている人もいるでしょう。高品質化するために手間やコストをかけると本末転倒です。その点では欧米はエコやサステナビリティに関する製品や取組みは進んでいますよね。確実に支持者が増えていると思います。 ―2020年らしいデザインのトレンドは。  伝統とテクノロジーの融合にどの国も力を入れはじめています。技術の進歩によって今まで伝統工芸でできなかった表現が可能になりつつあります。ダイナミックな作り方、有機的な形や複雑な加工などです。  ただ、それだけでなく刺繍や彫刻、最後の仕上げなどに人間の手仕事も加えるということが重要で、これにより単なる工業製品にはないぬくもりを与えることができます。 木材を糸状にスライスしたものを西陣織に仕立ててドレスを作ったり、中国の伝統的なデザインを3Dプリンターで出力し複雑な模様のランプシェードにしたりという例が出てきています。伝統色を研究し化粧品やファッション、家具などに広く生かしていく動きも世界で進んでいます。 ―デザイン関係の部署ではないビジネスマンでも、デザイン的な仕事に携わる機会は意外と多いと思います。  デザインは誰に頼むかで大きく変わってきますし、印象や良し悪しも個人の趣向が反映されがちです。例えば発注したデザインを見て何となく違和感があったとき、それは自分の中ですでにイメージがあって、そことのズレが生じているということ。その違和感をうまく伝え、デザインをどう変更してほしいのかを伝える工夫が必要です。  そんなとき役立つのが、自分がピンときているデザインを普段からストックしておくこと。ストックする対象は流行りのアニメや映画、本、服などなんでもよいと思います。デザインを依頼するとき、「自分がこういうものが好き」「こうしてほしい」というヒントを一緒に渡すことでイメージをぐんと共有しやすくなります。弊社でもそういったツールをいくつか展開しています。 ―デザイン経営やデザイン思考など、デザインの枠組みが広がりつつあります。  変化が大きい時代にあって、システマチックな経営だけでは立ち行かない場合も出てきています。そこで直感的に社会の動きをキャッチし表現しているデザイナーの感性や思考が新規開拓のキーワードになるのではないでしょうか。それこそがデザイン経営の真髄といえるでしょう。  (※)デザイナーや一般の人に向け、アジアを基軸にした色、素材、アート、デザインなどを幅広くセレクトしたもの。毎年発行。

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