視力に依存せず映像が見える“最先端メガネ”がARを日常にする

連載・未来を創るテックプロダクト#03

ことし8月に能の観劇における活用を検証した(QDレーザ提供)

そのメガネ型ウェアラブル端末を通して見える仮想の映像は、背景にある現実の映像を注視してもぼやけることはない。近視や遠視など視力に課題を抱えていても精細に見える―。QDレーザ(川崎市川崎区)が開発した「RETISSA Display(レティッサ・ディスプレイ)」だ。映像を網膜に直接投影するため、目のピント位置や視力に依存しない。視覚障がい者も視力0.8相当の精細さで映像が見られる。端末にカメラを付けて撮影した目の前の映像を投影することで視力を補う道具になる。 足元では主に視覚障がい者向けに国内外で販売を始めた。将来は拡張現実(AR)を日常に溶け込ませる道具としての普及を見込む。すでに、日本の伝統芸能である「能」の観劇において訪日外国人客に貸し出し、その内容を解説する英字字幕を投射するといったエンターテイメントの領域などで実証が始まっている。(取材・葭本隆太) 「レティッサ・ディスプレイ」はフレームの内側に超小型ディスプレイが搭載されており、微弱なレーザー光で網膜上をスキャンして網膜に直接映像を投影する。レーザービームの太さの制御など光学系の最適設計により、視力やピントに依存しないフォーカスフリー性と、視力0.8相当の映像の精細さを実現した。光源は赤緑青の三原色レーザーを用いており、フルカラーの映像を投影する。 QDレーザの菅原充社長は「網膜に映像を映す仕組みとしては理論面、技術面ともに全貌を把握して製品化しました。すでに完成しています」と力を込める。 開発は始めたのは2012年。半導体レーザーを扱う企業としてそれまで手がけていなかったレーザーの応用であるディスプレー分野に着手した。視覚障がい者向けのメガネ型端末という用途をテーマにしたきっかけは、視覚障がいを持つ学生の教育や研究を支援する大学の先生との出会いだった。 「大学の先生から声をかけてもらい、13年に完成したプロトタイプを(視覚障がいを持つ)学生に使ってもらったところ『よく見える』と言う反響があり、手応えを得ました。そこから(視覚障がい者向けの用途開発)プロジェクトが本格化しました」(菅原社長)。 ピント位置や視力に依存せずに視力0.8相当の精細さを実現した現在の製品は、光学理論を検証し、仮説・実証を繰り返してたどり着いた。「明確なブレークスルーはなく地道な積み上げでした」(菅原社長)。鮮明さの向上などとともに進んだ小型化は、世の中の技術進化による超小型の可視光半導体レーザーの出現など要素技術が揃ったことも後押しした。 ことし2月には医療機器として販売するため、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認審査を申請しており、本年度内の承認を見込む。欧州でも同様の手続きを進めている。医療を受けにくい中国やインドを含め世界3800万人の視覚障がい者を対象に展開する。すでに中国では民生機器として販売しており、市場が立ち上がろうとしている。また、国内では視覚障がい者だけでなく、老眼などを抱える高齢者の生活を支える道具としても普及させたい考えだ。 一方、AR活用を後押しする一般向けツールとしての普及も見込む。8月には能楽協会や富士通と共同で能の観劇における活用を検証した。訪日外国人向けに能の解説の英語字幕を投射した。2020年の東京五輪・パラリンピック期間中などに開催する能楽イベントでの本格活用を目指している。 将来像としては街中で日常的に利用されるシーンも描く。例えば音声翻訳機と連携して文字に変換した翻訳を現実の字幕のようにレティッサ・ディスプレイで投射すれば、外国人とより気軽に会話できるようになる。ただ、日常で活用するためには、さらなる小型化が欠かせない。 「日常での利用を想定すると、まずは現実を見ながら文字情報が与えられる仕組みが効果的だと考えています。であればレーザーは三原色を使う必要はなく単色で十分。それにより消費電力や発熱量が抑えられ、小型化につなげられます」(菅原社長)。 菅原社長の目には次の展開への確かな道筋が映っている。      

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