継続危ぶむ声も…自然災害がもたらす損保ビジネスの変調

温暖化で自然災害が強大化すると、保険を前提としたビジネスが成り立たなくなる(台風19号で千曲川が氾濫。応急工事で仮堤防を設けた住宅地側。10月20日=長野市穂保地区)

2018年度の自然災害による国内保険金支払額が、過去最高となる1兆5695億円にのぼった。19年度も台風が相次いで襲来して甚大な被害が出ており、損害保険ビジネスの継続を危ぶむ声が出ている。温暖化による異常気象は、保険サービスを受ける企業にも人ごとではない。 日本損害保険協会によると、18年度の風水災への保険金支払額は前年度比8倍以上、直近のピークだった04年度と比べても2倍以上に膨らんだ。関西を中心に大きな被害をもたらした台風21号だけでも1兆円の支払いが発生した。19年度は台風15号で千葉県、19号で関東甲信・東北の広域に大きな被害が出た。水害は被害1件当たりの支払額が大きく、2年連続で巨額の支払額となりそうだ。 すでに損保ビジネスに変調が起きている。かつて契約者が支払う毎月の保険料を35年間固定したメニューがあった。契約者には保険料の変動はないが、損保各社には自然災害による保険金の増加が負担となっており、35年間固定のメニューを維持できなくなった。損保ジャパン日本興亜CSR室の堀幸夫課長は「災害が多発し、過去のデータを活用して保険料を算定できなくなった」と解説する。 契約者の負担も増える。業界団体の損害保険料率算出機構は、保険料の上げ幅の基準となる「参考純率」を14年7月、18年6月、そして19年10月と立て続けに引き上げた。すでに20年中の引き上げも明らかになっている。現状でも15%近く上昇しており、損保会社の経営努力で吸収できない状況だ。損保各社は保険サービス維持のため契約者が負担する保険料を引き上げているが、上昇が続くと「損害保険を契約できない事業者が出てくる」(堀課長)と危機感を抱く。 しかも風水害が発生した地域ほど保険料は上がる。18年と19年は被害が地方に集中しており、保険料アップは中小企業の経営を圧迫する。保険に加入できない“保険難民”が増加すると、自然災害で事業継続を断念する企業が増える可能性がある。 損保会社はビジネスモデルが揺らぐ“被害者”ではあるが、その損保が石炭関連産業に保険サービスを提供することを批難する声もある。仏アクサなど海外保険大手は、二酸化炭素(CO2)を多く排出する石炭関連企業からの投資撤退(ダイベストメント)や保険商品の停止を表明している。 日本の場合、保険サービスが受けられずに石炭火力が停止するとエネルギー供給に支障が出る恐れがあり、国内損保は“脱石炭”にかじを切れない。保険商品の提供を通じて石炭関連産業に対話ができる立場を生かし、「脱炭素を促していきたい。社会の変化を後押しする存在になりたい」(堀課長)と話す。 20年にパリ協定がスタートするが、温暖化対策が遅れると自然災害は強大化し、保険を前提としたビジネスが成り立たなくなる。すべての業界が危機感を共有し、脱炭素社会へ一丸となる必要がある。 保険、銀行、証券など国内約300の金融機関が署名する「21世紀金融行動原則」は10月末、「漠然とした気候変動対応ではなく、成果を出すインパクトを明確に考慮した金融行動をとるべきだ」とする緊急提言を公表した。「持続可能な社会の形成に向けた金融行動原則」運営委員の金井司氏(三井住友信託銀行フェロー役員チーフ・サステナビリティ・オフィサー=CSO)に提言の狙いを聞いた。 ―急提言を発表した理由は。 「台風シーズンが終わったから、気候変動問題を放置していいのか。いま、本気で対策に動きださないとモラルの問題になる。自治体や学会が、温暖化対策の決意を表明する『気候非常事態宣言』を発表しているが、経済界からは出ていない。我々を含めた経済界が覚醒するきっかけにしようと緊急提言を発表した」 ―それだけ台風や豪雨被害が頻発する現状が非常事態ということですか。 「パリ協定は将来の異常気象のリスク低減が目標だが、すでに日本ではリスクが顕在化している。損保という業界が成立するのか、危険な状況だ。度重なる自然災害で金融業界が立ち行かなくなると、リーマン・ショック級の経済危機が起きる」 ―15年末のパリ協定採択後、金融業界が企業に気候変動対策を求める場面が増えました。 「なぜ、金融側から新しい要請が出てきているのか考えてほしい。すべての業界と接点を持つのは政府と金融だけだ。政府が公共資金を動かすのと同じように、金融業界も資金の流れによって世界を良い方向へ変えることができる。企業は金融に警戒感があるかもしれないが、我々もサステナビリティー(持続可能性)を追求しているというだけだ」 ―金融機関に必要なことは。 「ESG(環境・社会・企業統治)投資をして終わりではなく、投資した資金がどう使われ、社会を良くしたのか問われている。お金に“意味”を持たせることだ。そして企業をポジティブインパクト(好影響)を生み出す領域への移行をサポートする」 ―好影響を多く生み出すにはイノベーションが必要です。 「今の時代、1社でイノベーションを起こすのは難しく、“英知の結集”が必要だ。金融機関も企業1社への投融資ができなくても、複数社が集まると資金支援ができることもある。金融機関にはイノベーションに成功する環境をつくる役割がある」

続きを読む

関連する記事はこちら

特集