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日本経済の最大の問題は中小企業という理由

著者登場/『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』

<デービッド・アトキンソン氏インタビュー>

―ショッキングなタイトルですが、この本を書くきっかけは。
「経済成長の前提が全く変わったことに気づいてほしい。今の日本は世界の歴史に例がない急激な人口減と少子高齢化社会を迎えている。私は長年経済分析の世界で生きてきたが、5年前から『生産性』に注目してきた。日本は世界・歴史的に類を見ないスピードで人口減が進んでいる。技術革新でカバーできるという人もいるが、それならばなぜ30年間も日本経済は停滞しているのか。若い頃から日本経済を研究してきたので、日本人が新たなグランドデザインを自ら創るお手伝いをしたいと筆をとった」

―日本経済の最大の問題は中小企業という理由は何でしょう。
「日本の生産性は米国の7割程度しかなく先進国中で最低レベルにある。国際競争力が高いのに生産性が低いと言うことは、中小企業で働く人が多すぎるということだ。日本では中小企業が99・7%を占め、労働者の87%が働いている。中小企業で働く人の給料は大企業で働く人の給料より安いのは日本の常識だが、それは生産性が低いことと同じで国全体の生産性を押し下げている」

―中小企業が増えた理由は。 「前回の東京オリンピックの前年の1963年に成立した中小企業基本法にある。日本の中小企業の定義は製造業で従業員300人以下、小売りは50人以下だが、日本の中小の定義は小さく会社を大きくするインセンティブを奪っている。日本の場合、中小企業を守るため、法人税率軽減や交際費の損金処理など数々の優遇措置がある。赤字決算も見逃されている。『下町ロケット』のような『中小企業こそ日本の宝』だというのは神話だ。優れた経営者が(中小企業数の)約360万もいるはずはない」

―日本商工会議所など中小企業経営者の団体はアトキンソン氏が主張する最低賃金の引き上げ全国一律への転換に反発しています。 「中小経営者にとっては中小のままでいた方が居心地がいい。私自身も中小企業(小西美術工藝社)の経営者だが、中小経営者の会合に出ると高級車に乗って高級な時計をしている人がなんと多いことか。中小経営者の最大のメリットは『人を無駄に使える』ということだ。社長は会社の経費を使って社員は給料が安い。社長のための組織と言ってもいい」

「最賃の引き上げと全国一律化はセットだ。日本の生産性の低さは先進国中最低レベルの賃金しか払えない中小企業の経営者にある。人口減社会では企業の数も減るべきだ。政府が保護を続ければ農業の二の舞になる」

―意識の大転換が必要ですね。
「日本は大きな分岐点に差し掛かっている。国の借金は世界一に膨れ上がり、首都直下地震と南海トラフ地震はいつやってきてもおかしくない。『1964年体制』は遅かれ早かれ終わるが、それを日本人自らが行うのか、それとも中国の手によって行うのか。2020年の東京オリンピックを契機に、今の時代に合った産業構造に転換できるかで日本の未来は変わってくる」(取材=編集委員・八木沢徹)

小西美術工藝社社長・デービッド・アトキンソン氏

◇デービッド・アトキンソン氏 小西美術工藝社社長
65年英国生まれ、英オックスフォード大学日本学科卒業。92年ゴールドマン・サックスに入社、日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を集める。98年同社取締役、06年共同出資者、07年退社。在社中に裏千家に入門、06年に茶名「宗真」を拝受する。小西美術工藝社社長。
『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』(講談社+α新書 03・5395・4415)

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