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繰り返すミス、「なぜ作業者は図面を見間違えたのか」

連載小説「ぼくらの工場革命」EPISODE11 原因の盲点
前回までのあらすじ
 この物語は、若き経営者が試行錯誤を繰り返しながらも工場改革を実行し、経営者として成長していく奮闘記である。
 工場改革活動が進む中、見積ミスでトラブルが起き杉山に大きな課題が与えられる。このトラブルをきっかけに拓磨と藤原の関係が改善された。

「花村さん、助けてくださいよぉ~」

杉山は見積ミスによる40万円の損失を3カ月間で挽回するという課題を拓摩から与えられ、生産管理課の花村に助けを求めにきた。花村は仕事の手を止め、ジロっと杉山を睨みつけた。

「杉山くん、それは自分で考える!」
「そんなこと言わずに、ヒントだけでもくださいよ」

花村はため息をついて、ひと言だけアドバイスをした。

「運送費と梱包材。これらは下がるでしょ?」
「あ、そうか!ありがとうございました!」

杉山はそう言って運送会社と梱包材の金額を調べるために外へ出ていった。その様子を見ていた拓摩に花村が話しかけた。

「拓摩社長、杉山くんには何も言わない方がよかったですか?」
「いや、ヒントを出してくれて助かった。自分で調べて運送費と梱包材のコストを下げてくれるだろう。あとは、売上げをアップさせることができれば完璧なんだが、それは私からヒントを与えておくよ」

今日は近藤が訪問する日であり、拓摩は活動メンバーを収集して準備を始めた。工場長の藤原は私用で休みを取っているため不在だった。

「おはようございます。近藤です。」


玄関から近藤の声が聞こえ、会長の耕造が出迎えに行った。

「いや~、近藤先生。お待ちしていましたよ」

耕造は近藤を会議室まで案内する間に、先日拓摩と藤原が酒を交わし、関係性が良くなったことをうれしそうに報告した。近藤は耕造の顔を見て、1つのハードルを越えたと実感した。

「おはようございます!」

拓摩と活動メンバーは近藤にあいさつをした。近藤は各メンバーの顔を見回し、品質管理の佐々木がいないことに気づいた。

「あれ、佐々木さんは?」

拓摩は、昨日大きなクレームを受けて、佐々木がその対応に追われて参加できていない事情を説明した。近藤はまず現場を確認して、その後佐々木も交えてクレーム対応についてアドバイスすることにした。
 近藤と拓摩、そして活動メンバーはコイル材の置かれた倉庫へと向かった。近藤はひと通りコイル材の表示を確認した。近藤が話を始めるタイミングで花村が説明を始めた。

「今回コイル材に製造開始予定日を書くという取組みを進めました。最初は、予定日が不明なものがたくさんありましたが、1つひとつ発注ルールを確認していくことで製造予定に合わせた発注ができるようになり、材料在庫が大幅に減りました」

そして、拓摩が説明を続けた。

「材料発注のシステム化を通して、発注を一元化することで不要な購入が減りました。いろいろ苦労しましたが、何とかシステム統合できました」

近藤は花村と拓摩の説明を聞き、近藤が描いていた状態に近づいたと実感した。

「拓摩社長、花村さん、素晴らしい取組みです。今回やったことは、必要なときに、必要な材料を買うという仕組みづくりです。ぜひ、このまま継続してください」

拓摩と花村はほっとした表情をした。

「すみません、遅れてしまいました」

そこへ品質管理の佐々木が現れた。

「佐々木さん、クレームがきたそうで、対応大変ですね。どんな状況ですか?」
「部品の取付位置が図面と違っており、そこを指摘されました。顧客へ報告する原因究明の調査を進めています」
「なるほど。部品の取付位置を間違えた原因を報告書に書いて顧客に提出するわけですね。佐々木さん、原因の欄に何と書くのですか?」
「原因欄には、作業者が図面を見間違えたということですが、対策欄をどうするか悩んでいます」

近藤は佐々木の話を聞き、少し考えてから質問をした。

「佐々木さん、このようなクレームは初めてではないですね?」
「はい、以前から何度か同じようなミスでクレームを受けています」

近藤は原因追求について佐々木と活動メンバーに説明を始めた。

「作業者が図面を見間違えたというのは原因ではありません。現象なんです。つまり、なぜ起きたのかではなく、何が起きたのかという単なる事実です。これでは対策は打てず、繰り返し問題を起こすことにつながるわけです」

近藤は原因という捉え方について事例を含めて詳しく佐々木に説明した。

「佐々木さん、この問題の根本原因は、なぜ作業者は図面を見間違えたのか、ということです」

黙って考え込んでいる佐々木を見て、花村が口をはさんだ。

「伊藤さん、図面を見間違えたりするミスは特定の人じゃないですか?」
「そうですね。間違える人はある程度決まっていますね」

伊藤が答える。拓摩は花村の話から、ハッとして伊藤に問いかける。

「ということは、同じ作業をしていても図面を間違える人と間違えない人がいるわけだ。だとすると、間違えない人の手順に統一していけばミスをしなくなるのではないだろうか?」

伊藤が答える。

「今までは作業のやり方が個人個人でバラバラでしたので統一するという発想がなかったです。一度、製造のほうで話をしてみます」

佐々木は自分1人でクレーム対応を背負っていた重荷がとれたようでほっとした表情になった。近藤は活動メンバーのやり取りの様子を見ていてチームとして機能し始めていると感じ、梅原技研を後にした。(続く)

近江 良和(おうみ よしかず)
近江技術士事務所 主任コンサルタント
日本大学理工学部数学科卒業後、大手システム開発会社、翻訳サービス会社を経て、近江技術士事務所の主任コンサルタントとなり、工場の生産性向上指導や公的機関における経営支援やセミナー講演に従事する。「10カ月間で工場の生産性を25%アップさせる」という目標を掲げ、食品加工、板金加工、プラスチック成形などさまざまな業種の工場指導経験を持つ。主な著書は『稼働率神話が工場をダメにする』『モノの流れと位置の徹底管理法』(日刊工業新聞社)。
近江技術士事務所
工場管理 2019年11月号  Vol.65 No.13
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 深刻化する人手不足に伴い、新たな戦力として外国人材を採用する製造業が増えている。今年4月に改正出入国管理法が施行され、外国人技能実習生の受入れの幅が広がった。また、企業戦略やダイバーシティー経営の一環として外国人を正社員として採用するなど、外国人材の活用に期待が高まっている。ただ、外国人材を戦力化するまでには、言語や文化の違い、異国での新たな生活のケアなど、受入れ企業には乗り越えなければならないハードルが存在する。外国人材をどのように育て、職場の仲間として受け入れていくべきか。特集では、外国人材を初めて受け入れるケースを想定して、法令上の理解から受入れ準備、現場での育成、生活支援に至るまでの留意点をひも解いていく。

雑誌名:工場管理 2019年11月号
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