リーダーは「行動責任」と「結果責任」を果たしているか

連載小説「ぼくらの工場革命」EPISODE8 拓摩の課題

前回までのあらすじ  この物語は、若き経営者が試行錯誤を繰り返しながらも工場改革を実行し、経営者として成長していく奮闘記である。  社長拓摩をリーダーとして開始した工場改革の初日が終わり、1カ月が経過した。近藤の支援を受けながら工場改革第2日目がスタートする。 初回訪問から1カ月後、近藤は梅原技研を訪れた。今日は第2日目であり、主な内容は前回指摘したポイントについての進捗確認と次の課題を明確にすることである。近藤が指摘したポイントは2つ。1つは拓摩に依頼した管理システムへの統合、もう1つは花村に依頼したコイル材への製造 開始予定日の表示である。近藤は、花村に依頼したポイントについてはあまり懸念していなかったが、拓摩に依頼したポイントについては、どのように進めるかをこの1カ月考えていた。  というのは、管理システムへ統合するというのは、簡単なようで実は難しい。伝票処理している担当と管理システムを運用している担当が、それぞれ独自のやり方で長年やってきており、この習慣を変えていくというのは意外と難易度が高いのである。梅原技研のような中小規模の会社では、各担当者が独自のやり方を確立していて、そのやり方を変えることに大きな抵抗を示す。拓摩がそれぞれの担当者とどうコミュニケーションをとり、リーダーシップを発揮して、改革を実現できているかが重要な課題となる。大企業で経験を積んだ拓摩が、この課題をどう乗り越えていけるか、その支援の方法を近藤は考えていたのである。 「やぁ、近藤先生。おはようございます」 耕造が近藤を迎え入れた。耕造はこの1カ月間について近藤へ説明をしながら、活動メンバーの待つ会議室へ案内した。 「前回指摘いただいたコイル材についてですが、現場で変化が出始めてきたんです。詳細は現場で花村さんが説明しますが、確実に材料に対する意識に変化が出てきました」 「そうですか、それは良かった。さすが花村さんですね。現場の説明を楽しみにしていますね。それと、拓摩社長の課題の方はどうですか?」 「はぁ、それなんですけど、どうも進んでいないようです。拓摩もフォローしていないというか、関心が低いというか。近藤先生、その辺りを今日きっちりお願いします」 「会長、了解しました」 近藤は耕造との会話の中で、ある程度予想した通り、拓摩の課題が進んでいないという状況を踏まえて会議室に入った。 「皆さん、おはようございます。今日は2日目ということで前回指摘した点を中心に現場で確認します。さっそくですが、現場に向かいましょう」 近藤と活動メンバーはコイル材の置かれた倉庫へ向かった。近藤はコイル材に表示された情報を確認し、花村に話しかけた。 「花村さん、前回指摘した通りにやってくれましたね。新しい試みをやってみてどうだったか教えてもらえますか?」 「製造開始予定日が明確でないコイル材が非常に多いことに気づきました。また、コイル材の発注ルールがなく、経験や勘で発注しているものがあることにも気づきました」 「なるほど、とても良い発見でしたね。この調子でしばらく続けてください。状況把握ができるようになってきたので、これから改革する具体策を実行していきます」   近藤は次に拓摩へ話しかけた。 「拓摩社長、管理システムへ統合する件、進捗を教えてもらえますか?」 「各担当者へ伝えていますので、徐々に進んでいると思います。詳細は担当者から説明してもらいます」 近藤は各担当者を呼んでもらった。伝票処理している担当者と管理システムを担当している担当者が現われ、それぞれ状況を説明してくれた。結局のところ何も進んでいない状況であった。確かに、拓摩から統合するように指示を受けたが、お互いの担当者が何をどうすればよいかわからないままであったこと、各担当者同士が話し合う場がなかったこと、拓摩はその後進捗をフォローしていなかったことなどが進まない要因であった。そこで、近藤は拓摩に諭すように話しかけた。 「拓摩社長、ここはとても大切なところですので、よく聞いてください。従来の仕事のやり方を変えていかなければ改革はできません。むしろ、担当者が嫌がるようなことも実行していかなければならない場合もあります。リーダーというのは、その責任を負うことが仕事であり、そのために各担当者としっかりコミュニケーションをとることが必要です」 近藤は結果責任と行動責任という考え方を拓摩に説明した。結果責任とは、結果に対して責任を持つことであり、行動責任とは言われたことはやったという行動に対する責任である。拓摩が行ったのは、各担当者に伝えるという行動に対する責任であり、管理システムに統合されたという結果に対する責任を果たしていないということである。  言うまでもなく、拓摩は結果責任を果たさなければならない。この説明を聞き、拓摩は人を動かしていくことの難しさを痛感した。以前勤めていた企業では、ひと言言えば周りの人がきっちりやってくれた。だから拓摩は「言えば、やってくれる」というのが当たり前であると思っていた。  しかし、そうではない現実を目の前にして、梅原技研を率いていくことに不安を覚えると同時に自分自身が変わらなければならないという決意が芽生えていた。  工場長の藤原は、近藤と拓摩のやり取りを見ながら、拓摩が変わろうとしている様子を察して声をかけた。 「拓摩社長、俺も手伝うから、まず各担当者を集めて話そうや」 「工場長、ありがとうございます」 「拓摩社長、次回訪問までに必ず個別伝票を管理システムに統合しておいてください。花村さんのやってくれたコイル材への表示と管理システムへ統合するということは関連性があり、その2つがそろって次のステップにいきたいと思います」 「はい、わかりました」 近藤は梅原技研を後にした。(続く) 近江 良和(おうみ よしかず) 近江技術士事務所 主任コンサルタント 日本大学理工学部数学科卒業後、大手システム開発会社、翻訳サービス会社を経て、近江技術士事務所の主任コンサルタントとなり、工場の生産性向上指導や公的機関における経営支援やセミナー講演に従事する。「10カ月間で工場の生産性を25%アップさせる」という目標を掲げ、食品加工、板金加工、プラスチック成形などさまざまな業種の工場指導経験を持つ。主な著書は『稼働率神話が工場をダメにする』『モノの流れと位置の徹底管理法』(日刊工業新聞社)。 工場管理 2019年8月号  Vol.65 No.9 【特集】問題の本質を見極める 食品工場の人手不足対策 新アプローチ  製造業の人手不足が問題化する中で、特に生産性が低いといわれる食品製造業ではより深刻だ。人手不足対策には、外国人やパート社員など多様な人材の活用、働きやすい環境や人材育成の仕組みを整備し、今いる人材を定着させ生産性を上げること、そして人手作業をロボットや機械に置き換え自動化を推進することの、大きく3つの方法が考えられる。しかし、これらの改善策をただ単純に労働力補強という観点ではなく、生産性向上を追求していくことが大前提となる。特集では、製造業の中でも人手不足の解決策と生産性向上が急務とされる食品業界に着目し、取り巻く環境や業界特有の課題を捉えながら改善策を見出す。産業の垣根なく多様な製造業の工場管理者にも参考にしていただきたい。 雑誌名:工場管理 2019年8月号 判型:B5判 税込み価格:1,760円 販売サイトへ    

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