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ドバイ万博を手がける建築家「にじみ出る日本らしさ表現したい」

永山祐子さんインタビュー
ドバイ万博を手がける建築家「にじみ出る日本らしさ表現したい」

敷地の形を生かして日本ならではの「美」を表現したと語る永山さん

 

 日本で初めて開催された国際博覧会(大阪万博)から55年後となる2025年。再び大阪・関西に万博がやって来る。最新技術や芸術を披露する場となってきた万博だが、今や情報が瞬時に世界中をかけめぐるいま、開催の意義や、その先にどんな未来社会を描くのかー。来年10月に開幕するドバイ万博の日本館の設計を手がける建築家・永山祐子さんが語るビッグプロジェクトの魅力とは。

「つなぐ」に込めた思い

-アラブ首長国連邦(UAE)が建国50周年を記念して開かれるドバイ万博の全体テーマは「心をつなぎ、未来をつくる」です。日本館にはどのような思いが込められているのですか。
 「三つの視点で『つなぐ』を表現しました。ひとつは日本と中東の歴史的なつながりを感じさせるアラベスクと日本の伝統的な文様を組み合わせたファサード(建築物の正面部分のデザイン)。もうひとつは水を通じた『つながり』です。日本は水資源に恵まれる一方、自然災害も少なくなく水との共生が課題であるのに対し、中東諸国は水の確保が課題です。水との距離感の違いや日本の淡水化技術などは中東で活躍している実情を、建物前面に設ける水盤で表現しています。三つ目は世代や国を超え人々が万博を機に、つながり合える場所にとの思いも込められています」

ー世代といえば、過去に万博パビリオンを設計してきた歴代建築家に比べると永山さんは若く、しかも初の女性です。
 「安藤忠雄さん、北川原温さんをはじめ、そうそうたる方々が設計してこられた日本館、まさか自分が携わることになるとは全く思っていませんでした。公募を知ったのも締め切りの数週間前でしたが、ドバイと聞いて心躍りました」

ードバイに縁があったのですか。
 「学生時代に友人の両親の家のあったアブダビに休みの間、滞在していたことがあり、UAEは全く無縁の土地ではありませんでした」

体感してこそ得られるもの

 

ー過去にはルイヴィトン京都大丸店、豊島横尾館、2022年には新宿・歌舞伎町に完成予定の超高層ビルのデザインも手がけるなど数多くのプロジェクトを手がけている永山さんにとって、万博パビリオンにはどんな意味がありますか。
 「アイコニックなデザインとともに人々の記憶に刻まれることが万博の醍醐味(だいごみ)のひとつだと思いますが、メディアを通じて発信されるビジュアルだけでなく、その場に足を運んでこそ体感できる雰囲気を大切にしたいと考えています。例えば、光の差し方や風のそよめきですね」

ー日本館のファサードには数多くの小さな膜が張られるそうですね。こうした効果を狙っているのですか。
 「日差しが強いので暑さを遮断する機能的な意味合いもありますが、全体の表情を柔らかくする効果を狙っています。それも一枚の大きな膜ではなく、小さな膜が集積して全体を覆い、風に細かく揺れ動きます。このファサードを見た現地の方は、『繊細で折り紙のような』印象を持ったようです」

ー初めから折り紙を意識していたのですか。
 「実は『日本の折り紙みたい』と指摘され、確かにそうだなと気付かされました。しかも折り紙は他者への敬意を表す礼法が発祥です。世界中の人をお迎えする万博にふさわしいと思いました。ファサードのデザインを詰めていく際に、さらに折り紙のような見え方になるよう調整していきました」
 「さらに今回の日本館の敷地は台形なので、これを生かし日本人が美しいと感じる『白銀比』をベースに水盤と本体、2つの二等辺三角形を配置しました。ファサードを前面に押し出すのではなく、ちょっと路地を入っていくと建物に行き当たるイメージです。こうしたひとつひとつのたたずまいに『日本らしさ』や『日本の精神性』がにじみ出ればいいと思っています」

ものの「ありよう」を大切にしたい

ー「和」は主張するのではなく、あくまで「にじみ出る」ものなんですね。
 「過去に私が手がけてきたプロジェクトにおいても、建物を固定化するのではなく『状態』としてのありようを大切にしたいという思いが通底しているように感じます。石造りの堅牢(けんろう)な雰囲気よりも、木材の優しい風合いや障子越しに透ける光、風にゆれるはかなげなものを好む姿勢が背景にあり、これらは日本建築に通じる要素かもしれません」

ーそれも伝統的な和の素材を用いるのではなく、一般的な工業製品を用いて実現されるとか。
 「そうです。ルイヴィトン京都大丸店のファサードは、携帯電話などに広く用いられる偏光板を用いて立体的な格子模様を表現しました。状態としての『ありよう』を意識した設計を追求するようになったのは、この頃からかもしれません」

ーさまざまな思いが込められたドバイ万博を起点として5年後の大阪・関西万博にどう「つなげて」いきたいですか。
 「人々が一堂に会するのは5年に一度かもしれませんが、次回開催までの間にもさまざまな取り組み、とりわけ若い世代の発信機会があれば、よりよい未来につながると感じます。日本館の公式ユニフォームの制作デザイナーがアンリアレイジの森永邦彦さんに決まりましたし、ロゴのデザインも若いデザイナー(増田豊さん)によるものです。こうした若手の活躍はうれしく感じます」

ファサードには風にそよぐ数多くの小さな膜が張られるという
神崎明子
神崎明子 Kanzaki Akiko 東京支社 編集委員
12月のMETIジャーナル政策特集は「万博」。あなたの思い出の1ページを彩る万博をひもときつつ、これからの万博を考えます。

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