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孫さん×馬さん。2人の20年と人類の未来を語り尽くす伝説の1時間

ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は6日、東京大学安田講堂(東京都文京区)で行われた国際会議「東京フォーラム」で、中国の電子商取引最大手、阿里巴巴(アリババ)集団の創業者である馬雲(ジャック・マー)氏と対談した。孫氏が馬氏と出会い2000万ドル(約20億円)の投資を決めてから来年で20年になる。フリーアナウンサーの小谷真生子さんを司会に、20年前の出会いを振り返り、教育変革や未来へのメッセージを学生らに伝えた。(取材・水嶋真人)

<始まりはたったの10分>

小谷 「2000年に2人は出会いました。伝説的な5分間の出会いでした」

孫 「正確には10分だった。2000年はネットバブルのピークで、中国ではインターネットが始まったばかり。私は米国に投資したインターネットサービスを日本に広げていたが、次は中国だと感じていた。中国では(投資対象候補の現地IT企業)約20社に対し、それぞれ10分ずつ面会したが、なぜかジャックに強い印象を持った。他の人たちは事業計画を示し、出資を求めたが、ジャックはしなかった。未来がどうなるか、夢や哲学、理念を目をキラキラさせながら話すジャックが私の心をつかんだ。ジャックと会ってお金の話したことない」

馬 「友人に孫さんに会ってくださいと言われ、面談した。面談2カ月前に500万ドル(約5億円)を獲得していたので、それほど資金はいらなかった。孫さんには事業計画でなく、その後世界はどうなるか話した。孫さんにいくら投資してほしいと聞かれ、資金はあまりいらないと答えたら、いやいやもっと使うんだと。当時、本当にネットを信じている人が少なかった時に、インターネットが発展した未来に向け、どのように人の生活に貢献するのかという同じビジョンを持っている人を探していた。犬とオオカミは似ているが違う。同じビジョンを持った人を友という。それが孫さんだった」

馬 「孫さんとは友人のような関係、インターネットの夢実現する心の友だ。友人関係で大切なことは、お互いの得意分野と苦手分野を把握すること。孫さんは、未来に向けたビジョンがあってガッツを持って投資ができる勇気を持つ。そのような人はなかなかいない。意見が合わないわない時はけんかもするが、一緒に協力しながら未来を作っていきたい」

孫正義氏

孫 「ジャックが得意なのは人への思いやりと人を育てること。この人はこれが得意だと見抜く力があり、その良い部分を伸ばす能力がある。各分野の優秀な人物を引き寄せて、その道の専門家に育てている。昨晩、2人だけで夕食をしたが、数時間ずっと組織論の理念を話し合った」

馬 「最高経営責任者(CEO)はリーダー。方向性を決めて将来に向かって進むため、良い部分を鼓舞しながら会社を導かねばならない。そのために適切な人材見つけて訓練して統制し、力を与える。CEOはチーフ・エデュケーション・オフィサーだと思う」

小 「10分間の出会いで馬さんの成功をどう見抜きましたか?」

<5000万ドルを持っていけ!>

孫 「ジャックが犬とオオカミは似ているが違うと言っていたが、犬は犬同士、匂いで分かる。ジャックのプレゼンテーションからは、心から情熱あふれる言葉を感じることができる。グラフィック満載の美しい資料を用いたプレゼンでなく、情熱あふれるプレゼンがほしい。プレゼン資料を用意せず、信念と情熱、ファイティングスピリットあふれるジャックのプレゼンを5分聞くだけで成功を確信した。私のお金持っていけと思い、残り5分は彼にいかに資金を受け取ってもらえるか説得した」

馬 「孫さんからは5000万ドルと言われたけれど、その10分の1で大丈夫と言った。今までそんなお金見たことなかった。4000万、2000万ドルと下げていき、2000万ドルで落ち着いた。私は顧客が第一、次が従業員、投資家は3番目だと言っている。だからパワーポイントによるプレゼンはしない、投資家が好むプランを作ることはやらないと言っている」

小 「出会いから20年経って、お互いを一言で言うなら?」

馬 「お互い年を取った(笑)。しかし、今も情熱を持っているし、未来のために戦い続けている」

孫 「ジャックは変わらない。自分の信じていることだけをやっている。ジャックの目標は世界を変えるために若い起業家を育成すること。最初に会ったそのときから彼はそう言っていた。小さな起業家に希望とチャンスを与えることに関心を持ち続けている」

小 「起業家として重要なことは?」

馬 「起業家として重要な条件は将来を信じること、チームを信じること、チームとして戦う必要なことに加えて、楽観的に考えを持てることだ」

孫 「お金は誰も持っていないけれど、大きな情熱を持つ、楽観的に明るい未来を信じていること。お金を求めたらお金は逃げていくが、夢を追いかけるとお金がついてくる」

<AIでアドレナリンが出る>

小 「孫さんは人工知能(AI)関連企業に1000億ドル(約10兆円)以上の投資をしています」

孫 「ソフトバンク・ビジョン・ファンドで900億ドル(約9兆円)を投資済みで、2号ファンドを準備中だ。今後10年でもっとこの分野に投資する。世界で起きているAI革命に投資し、若い投資家を助力する。何から何まで自分で発明するのではなく、重要なのは、世界を変革する若くてクレイジーな投資家を見分けること。こうした複数の起業家が世界を変革する際に協業できれば大きな波を作り出せる。ジャックは、より人に関心を持っているが、私はテクノロジーそのものに興味を持っている。新しい技術やビジネスモデルを見ると本当にワクワクしてうれしくなり、眠れないくらい。ビジネス目的でやっているわけでなく、ほとんど趣味のようなもの。本当にワクワクする」

小 「孫さんは14時間連続で仕事すると聞きました」

孫 「これは仕事ではない。楽しくてやっている。AIって楽しい。アドレナリンが出る」

ジャック・マー氏

馬 「未来は今日より良くなる。ただ、そのために準備できていないとだめだ。AIに心配している人たちは準備できてない人。未来に向けた準備を整えるために人の気持ちを変えなければならない。そのために教育システムを変えないといけない。この200年、人間が機械のように働いていた産業時代では、生き残るため、計算や文字を早く覚えるための勉強だった。だが、AI時代はコンピューターが答えをより早く正確に導き出す。AIの普及で仕事の半分がなくなる中、子どもたちに教える中身を変えないといけない。今後は、創造性やクリエイティブを育てる教育をしないと、変わり始める未来を受け入れられなくなる」

孫 「ディベート(討論会)など他人とコミュニケーションする教育をしないとだめだ。日本は教師の言ったことをノートに書いて公式や歴史の年号を暗記するだけ。今は米グーグルの検索サービスで調べれば答えがすぐ出てくる。ディベートして他人とコミュニケーションとって一緒にモノを作る能力が、これからもっともっと必要になる。150年前、明治維新の時に仕事の9割が農業だったが、今は5%しかない。明治維新後、新しい仕事が生まれたことで、9割農業していた人が劇的に変わった。新しい仕事が生まれたことに合わせて教育も変えないといけない」

馬 「未来に合わせて教育も変えないといけない。ただ、学校は勉強の仕方を学ぶ場所。社会が最高の大学だと思う。学校にとらわれず好奇心持って学ぶべきだ。博士号を取っても『そうですか、だから』というくらいでしかない。学び続けることが大切だ。最高の教師である『過ち』から自ら学ぶべきだ」

馬 「20-30年後、人間は週3日2-3時間働けば済む時代が来る。我々の孫の代には3時間働くだけで忙しいという時代が来る。我々の祖父は人生で2-3カ所の都市を訪れるだけだったが、孫の代には300カ所の都市を訪れるようになり、人生をより楽しむ。生まれてきたのは働くためでなく楽しむためだ。テクノロジーは人生を楽しむためのもので、働くためのモノでない。この信念の下に商品の購入も決済も配送も便利にしてきた」

<「龍馬」と「カンフー」>

小 「影響を受けた存在はありましたか?」

孫 「15歳の時、家庭教師がこういう本を読むべきだと勧めてくれた司馬遼太郎の『竜馬が行く』に出会った。その夜は眠れなかった。それで私の人生が変わった。純粋なハートと、心の中に革命を持っている人、より良い社会のために全人生を捧げた坂本龍馬に感銘を受けた。学校なんて行っている場合ではない、世界を見てみよう、米国に行こうとなった。その後も人生で新しい段階来るたびに繰り返し読んでいる。そのときの自分の立ち位置から読み進めるため、見方が毎回違っている」

馬 「正義のために戦う、他の人を救うために戦うカンフー、マーシャルアーツが好きだ。テクノロジーもいろいろなことをより良くする。他の人をサポートすることに情熱を傾けているし、たくさんの人からインスピレーションを得ている。どんなに成功していても社会があるから、他の人が支えているから今の自分があると考えている」

孫 「坂本龍馬が大好きということが、その後の旅路のスタートになったが、このほかに10人くらい愛してやまない人がいる。父は今でも尊敬している。父と話すだけでもインスピレーションを受ける。キラキラした目を持っている若い社員、起業家からも学んでいる」

小 「若いうちに伸ばしておくべきことはありますか?」

孫 「大きな信念と情熱を持つこと。この思いが強ければ強いほど、達成できることも増える」p

馬 「楽観的であり、文句を言うなと言いたい。チャンスがない、解決法がないと文句を言うのではなく、未来は明るいと信じながら、他の人が文句を言っていることがビジネスチャンスになると思えるような楽観的な気持ちを持ってほしい」

<300年後のソフトバンク>

小 「300年続く会社になるために必要なことは?」

孫 「創業者として会社の未来について心を砕いている。私が死んだ後、会社がまだまだ成長してけるよう、素晴らしいビジョンと理念、組織を作る。この企業風土を作れば300年会社が続く」

馬 「大学や教会は300年以上続いている。素晴らしい指導者と、聖書のような本(理念)があるからだ。102年後アリババが残っていたら、その時代の社会課題の解決に奮闘し、より良い未来に導こうとしているだろう」

孫 「もし、一つのビジネスモデル、一つの製品しかなかったら生き残れない。これが、50、100あれば、変化していく時代の中で光り輝くモノが生まれる。光り輝くモノを生み出せる塊として生き残っていく、そしてデジタル変革で人々を幸せにするのが私のビジョンだ」

孫正義氏(左)とジャック・マー氏
ニュースイッチオリジナル
小川淳
小川淳 Ogawa Atsushi 編集局第一産業部 編集委員/論説委員
もう日本で見ることができないのではと思うくらいの豪華な2人の対談。馬氏は9月にアリババ会長を退任する際、教育者に戻ると言ったそうですが、孫さんの話を聞くと、最初から教育者というスタンスだったんですね。2人の語るAIの未来、何時間でも聞いていたいです。

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