ニュースイッチ

トヨタ車の“違和感”を五感で見つける整備士の仕事

トヨタ自動車の佐藤さんは虫の音すら見逃さない
トヨタ車の“違和感”を五感で見つける整備士の仕事

「人間の感覚だけで8割方解決できますね」と佐藤さん(写真右)

 

「人間の感覚だけで8割方解決できますね」―。トヨタ自動車の佐藤陽二さんは、クルマの性能を左右する車両開発の評価業務に従事している。量産前のクルマを評価・改善するのが主な仕事で、ドア開閉時の音からアクセルやブレーキの効き方、走行時のクルマの挙動まで、評価項目は多種多様だ。クルマが顧客に与える不快感を極限までなくすことに心血を注いできた。

 

開発車の“違和感”を見つけるための一番の要素は人間の感性という。五感を研ぎ澄ませ、わずかな異変も見逃さない。「市販車の性能をあずかる重要な仕事。お客さまの立場に立つことが不可欠だ」と強調する。

 

試作車の評価のためテストコースを走行していたある日の夜。周回時に同じ地点で何度も異音を確認した。アクセルの開閉やシフトチェンジなど条件を変えて走行したが異音はやまない。試行錯誤の末に原因は特定できたが、それは虫の鳴き声だった。その地点をクルマが通るたびに、虫が鳴きだしていたという。

 

虫の音すら見逃さない技能の習得には10年ほどの歳月が必要で、若手には「まずは現場であらゆるノウハウを吸収し、スペシャリストを目指してほしい」と助言。「先輩の指導に対する恩は返すのではなく、後輩に送る『恩送り』がトヨタのDNAだ」と、技能伝承にも奔走する。

 

この先クルマがどう進化しようとも、性能評価に終わりはない。トヨタ車を手にした顧客の笑顔を思い浮かべつつ、今日も後進の指導に熱を入れる。


(文=名古屋・長塚崇寛)
日刊工業新聞2019年12月2日

編集部のおすすめ