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「壊れやすいものは鋳物に」で生まれたトイレ

壊れやすいものは鋳物に―。埼玉県の鋳物メーカー2社が鋳物のトイレや手元供養品を相次いで発売した。本来、両製品は陶器製やガラス製などを主流としている。両社は耐久性に優れる鋳物の特性を生かし、新たな利用方法を提案している。(取材=さいたま・石井栞)

壊れない小便器

伊藤鉄工(埼玉県川口市)は、排水鋼管用可とう継ぎ手やマンホールを手がける。鋳物製小便器の開発は「公衆トイレ破壊事件がきっかけ」(伊藤光男社長)という。2014年に東京都練馬区内の公園で陶器製小便器の大量破壊事件を受け、東京都公園協会から壊れにくいトイレ製作の相談を受けた。壊れにくさのほか、掃除のしやすさや軽量化を目指した。2年間にわたり実験を重ね、製品化にこぎ着けた。

鋳物製小便器はダクタイル鋳鉄の薄型形状とした。モノコック構造を採用したためバールなどでたたいても壊れない。オープン価格で、5基以上の想定価格は9万7200円(消費税抜き)。すでに駒沢オリンピック公園4基、谷中霊園1基を納入した。訪日外国人の増加に伴い需要も拡大するとみられ、今後もさまざまな製品を提案する。

手元供養の地蔵

フランジ製造のナガセ(埼玉県川島町)は「手元供養地蔵」を発売した。遺骨や遺灰を身近な場所で保管する手元供養の市場が広がりを見せている。その一方で、永瀬満康社長は「手元供養品は陶器製やガラス製が多く、落下などで壊れてしまう可能性がある。鋳物の持つ頑丈さと重量感を打ち出す」と語る。

これまで工業製品が多かったためデザインには苦労した。インターネット上で粘土の地蔵を作る動画を発見し、その作者にデザインを依頼。粘土の地蔵から図面を起こした。手元供養地蔵は本体の底部に骨壺(こつつぼ)を収納する。サイズは幅90ミリ×奥行き75ミリ×高さ110ミリメートル。重さは約700グラム。消費税抜きの希望小売価格は約11万円から。

同社は1878年創業の老舗メーカー。BツーC(対消費者)事業は初挑戦となる。今後も顧客のデザインに合わせた新たな製品づくりなどを進める。

日刊工業新聞2019年12月2日

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